橋本きよ子写真展「花のフォトグラム」/日本写真会館[map]

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 橋本さんは70に近い、ものすごく元気でチャーミングなオバサンだ。出会ったのは去年の夏の高田馬場のレンタル暗室。ある日「今日、あなたが来るって聞いて、待っていたのよ!」と突然、声をかけてきた人、それが橋本さんだった。
 そのレンタル暗室にはダイレクトプリント用の現像機がある。ネガ用の現像機のあるカラーのレンタル暗室は珍しくはないが、ダイレクトのは関東近辺ではここしかないだろう。けれども、定期的な利用者は長らく橋本さんだけだったらしい。受付の人に、最近、ダイレクトプリントを精力的に始めた女の子がいるという話を聞いて、どんなヤツだろうと思ったそうだ。「だって、私1人しか利用者がいないと維持するだけでも大変なこの現像機、捨てられちゃうかもしれないのよ。アナタが来てくれて本当によかったわ」橋本さんと私は、全く違うモノを作っているのだが、共通しているのは、それはダイレクトプリントでないと出来ないという点だ。
 橋本さんは長年、花のフォトグラムをやってきた。印画紙の上に直接、被写体(彼女の場合は花)を置いて露光をかけて現像したもの、それがフォトグラムだ。技法自体は古くからあるが、カラーのをやっている人は、まずいないだろう。ネガの現像機を使うと色が反転してしまうため、ダイレクトプリントの現像機がマストなのだが、業務用以外に使えるところが、ここしかなく、しかもやっているのは彼女しかいないのだから。
 フォトグラムにはカメラもフィルムも要らない。その代わり、複製はできず、常に一発勝負になる。しかも、花は生ものなので露光をかけるだけで熱と光にやられて、続けて同じ位置においても、微妙に状態が違うらしい。「昔の人は、写真を撮られると魂を吸い取られるって考えていたでしょ。私は、花の命を吸い取ってるのかもよ」
 今回の展示は、モノクロばかり。けれども研究熱心な橋本さん、タダのモノクロではない。プラチナプリントだ。自分で乳剤を調合し、印画紙にしたい紙にその乳剤を刷毛で塗って、露光をかける。乳剤の中に、本当のプラチナが入っているのでプラチナプリントと呼ぶのだと今日、教えてもらった。画像は、DMに使用している月下美人。オーラが写っているようだ。
 「材料費(プラチナ)もそうだし、額も特注であつらえたし、旦那に『道楽にもほどがある』って言われてるんだけど、でも彼には実際の半額しか言ってないの」でも、橋本さんのやっていることは、国内はもとより、海外にだっていないかもしれない。しかも、素人にしておくには惜しいくらい、徹底的に凝っている。彼女も放っておいても勝手にやってしまうアーティストなんだろうなと、今日、改めて思ったのだった。
 4月4日(月)まで 10:00-18:00 土日もやってます。