目を閉じて

 1年以上ぶりに暗室をレンタル。久しぶりにあった受付のKさんにご挨拶。そして、電車の中で読み終わった『ビッグコミック』を差し上げる。彼曰く「読むに値する漫画雑誌はこれしかない」とかで。
 初めてのネガプリント。これまではポジプリントのみ。イーゼル、引き伸ばし機等のお道具は同じだが、露光時間、YMCのカラーフィルタの考え方、全てが逆。足し算だったのが、引き算になる。かといって、単純に引き算でもない。
 それでも体で覚えたことは、中々忘れないものだというのを実感する。
 印画紙のセットは一切の光がない、暗闇の中で行う。箱から取り出して、裏表を指の腹の感覚で確認。印画紙の縁を正しい溝の中に押し込む。イーゼルの枠をおろし、露光ボタンを押す。
 また、テストピース用に印画紙を短冊状にカッターで裁断するとき。紙の縦横を意識して間違えないよう、カッター(スライド式)に挟み込む。いつも頭の中に印画紙のスクエア型がぼぉっと浮かんでいる感じ。
 一切の光を感じることができないとなったとき、自然に目は閉じてしまう。闇の中で目を開けていると、眼球が乾く感じがとても気になってくる。
 視覚情報というのはとても刺激的なので、普段はまったく気にもとめないのだが、目を開けているということは、案外、しんどいことなのだろうか。
 そして意外に敏感になるのは、触覚。
 ポジでやっていたときは業務用のマット紙を取り寄せて愛用していた。これがまた、表と裏でほとんど変わらないシロモノで。
 最初は泣きそうな気持ちで。けれども、だんだんと微妙な違いが、ハッキリとわかってくるようになりました。
 まして今日は普通の光沢紙。なので、とても分かりやすい…というか、むしろ指先から違いがビリビリ伝わってくるような感じ。
 もちろん、例えば今、パソコンのキーボードを叩いてるこの指先はそんなに鋭敏であるはずもなく。暗闇にある程度慣れた時、そういう風になってくるというだけのこと。
 2/25のコメント欄ですばらしいエッセイスト三宮麻由子さんの紹介をしていただいた。ちょっと暗室で作業をする程度では、彼女の豊かな世界には、はるかに及ぶわけもなく。けれども、きっとそういうことはあるだろうなぁと、大いに共感。
 暗室作業は疲れるけれど、なぜかリフレッシュした気分になります。普段使わない筋肉を動かすと恐ろしく疲れる一方、体の調子よくなるのに似ているような。