ギュスターヴ・モロー展/Bunkamura ザ・ミュージアム

 以前、ルーブル、そしてオルセーでモローの作品を間近で見て、そのディテールに恐ろしく感動した。CGのない時代に、なんというヘンテコな幻視をしていたのだろうかと。

 言葉で上手く説明できないのだけれど、赤や緑の鮮やかな色彩の上に、細く黒い線(時にその黒に立体感をつけるためか、白い線も加わる)で、透かし模様のような線が入る。目の前の光景が、色・質感と形・文様のレイヤーに一旦分離されて、再合成してるような。でも、そのレイヤーはやや浮きぎみで、なんとも不思議な感覚。

 不思議と画像や画集からは、その辺のニュアンスが消えてしまっている。なんでだろう。実物では浮いてるように見える、わずかな奥行き感がつぶれてしまうのか?>素人考え。

 それで、モロー美術館にも行った。確かに展示数は半端でなく。壁面にところ狭しと。不思議と天井の高い部屋のつくりの、その天井の高さスレスレにまで作品がかかっている。

 ただ、ルーヴルやオルセーほどの感動はなかった。習作はもちろん、描きかけ?みたいなのも多かった。間違いなく同一人物の描いたモノではあるんだろうけど、完成度が全く違うものがほとんどで。もちろん、数があまりに多いので、中にはおお!と思った作品もあったけれど。*1

 モローの自宅であり、アトリエであり、そして生前から自作品の美術館として国家に寄贈するつもりで残した建物。そういう意味では、大変、興味深い美術館。調度品も当時のままで、趣きたっぷり。

 ゆえに、生活空間だった場所にそのまま作品が掛かっている感があって、なんというか「太陽光が差し込んで、作品はダメージを受けたりしないのかなぁ」との素朴な疑問も。*2実際、ルーブルやオルセーに展示されている作品のような、暗闇の中で鈍く輝く宝石のような独特の色合いの作品がなく、全体に白っぽい感じが。それは完成品ではなく、実は描きかけだったりするからなのか。
 
 で、今回のモロー展は、100%モロー美術館から持ってきたものということで、以前に訪れた際のモヤモヤが解決できるか、はたまた、あの時は見られなかったルーヴル、オルセー所蔵品にまさるとも劣らない作品が見られるか、を目的として行ったわけですが。


 うーむ。今回も描きかけなのかどうかよく分からない作品(習作ではない)がいくつかあったのですが、作品脇の解説を見ても特に何も触れていないので、本人的にはどういうつもりだったんだろう、という疑問は解決せず。そもそも描きかけ?と思ってしまうのは、ルーヴル、オルセー所蔵があまりにも凄すぎるので、それと比較してしまうからなんですが。多作ではあっても、同じテンションで描き上げた作品は、それほど多くない人なのか。

 ポスターにも使われた「一角獣」google:image:モロー展 一角獣]は、色使い、透かし模様の感じがそれなりには出ていた。「出現」[google:image:モロー展 出現も中々よかった。

 見物客のおばさま方は、会場のあちこちで「きれいね〜」を連発なさるのだけれど、「本当はもっと凄いのがあるんですよ!」と言いたいような気持ちで会場を後にしたのでした。とにかく沢山まとめて見られた!という意味では大満足でしたけど。

 ところで。

 「出現」は、あのサロメのエピソードがモチーフになっているのですが、解説によると「サロメ」とはヘブライ語で「平和」という意味だとか。意外。

*1:それは今回、来てなかった。例えば「ユピテルとセメレ」google:image:モロー ユピテルとセメレ雷に打たれて絶命した愛人を神の姿に戻ったユピテルが抱えているの図が真ん中にある作品なのですが、なぜかマンダラを連想してしまうのです。

*2:ルーヴル美術館の秘密』(感想:http://d.hatena.ne.jp/a2004/20050207/p1)というドキュメンタリーを見て、フランス人の管理方法って思ったより大雑把なのだろうか?と思ったしなぁ。