プラート美術の至宝展/損保ジャパン東郷青児美術館

 ボッティチェリの師匠リッピの祭壇画が、わざわざ教会からひっぱがされて*1やってくるというので見に行ったのですが、本当にゲージュツ物としての目玉はそれだけでありました。

 それなのに中高年で凄い人だかり。なぜだ〜。それはほとんどが無料招待券でいらっしゃる方々だから。ギューギュー詰めエスカレータに一緒に乗った人で、会場前受付でチケットを買ってたのは私だけ。皆様、無料招待券を手にまっすぐ入場していかれました。どんだけばら撒かれているんだか。

 けれども、プラートという都市の面白さは予想外の発見。

 フィレンツェという強国からわずか15kmという距離で、いかにその侵略に抵抗、さらには脱却を図るか。

 それで編み出したウルトラC技が、聖帯伝説。

 聖母マリアが死後、復活して天使とともに昇天した。その証拠として昇天の際、身に付けていた帯を使徒トマスに授けた。…で、その聖帯が巡りめぐって、最終的にプラート商人が死の際に大聖堂に寄付。以降、そこで祭られることになったというお話。

 つまり、聖帯を所持することでプラートは、聖母様の特別な加護がある都市であることを内外ともにアピールしてきたらしい。フィレンツェよ、この印籠が目に入らぬか〜ここは聖地であるぞ!または、ローマ法王様、フィレンツェが一方的にこの聖地を支配下に置こうとしています、タスケテ!みたいな感じでしょうか。また、度重なる苦難に、プラート市民の団結力を高める役割も大いに果たしたようです。

 実際のところ、イエス自体が歴史上存在したという決定的証拠がない中、ましてやマリア様の帯なんて…うーむ、どう考えても捏造。または、商人から騙されて購入…というのが真相ではないかと想像するのですが。神をも恐れぬ不謹慎モノで、すいません。

 で、今回のリッピの祭壇画も「身につけた聖帯を使徒トマスに授ける聖母」というタイトルだったりで、他所では見ることのない聖帯伝説テーマの美術品がいっぱいなのでした。ある意味、信仰と美術と郷土意識のコングロマリット展示会。

 小国が大国の脅威に飲み込まれないための知恵として、非常に興味深いなと。

 ここでフト思いつき。

 最近、ブッシュ大統領の下、保守化というか、行き過ぎたキリスト教観(進化論を神の教えに合わないから学校で教えないとか)がチラホラ見えるアメリカですが、そんなアメリカの傘の下で生き残りをかけるわが国日本でございます。政治家の方々は靖国に参拝して、毎度毎度ブーイングをいただくよりも、こちらのお墓にお参りした方が、プラスにアピールするのではないかと。またとない聖地です(笑)。

*1:元々、サンタ・マルゲリータ女子修道院の注文を受けて製作されたものだけれど、現在はプラート市立美術館所蔵品のようです。初来日。