栄光のオランダ・フランドル絵画展/東京都美術館
私は時々、展示会のチケット売場の近くで、年配の方から「余ってるからあげますよ」と声をかれられて招待券をいただくことがある。
今日のこの絵画展は知人から招待券を2枚貰っていたのだが、いっしょに行く相手に振られてしまった。残念。しかし、今までのご恩を社会に還元するいいチャンスかもしれないと考え直し、チケット売場の近くに立って譲る相手を物色してみることにした。
実際にやってみて分かったのは、意外に難しいということだった。まず一番多くいらっしゃるのはシルバーの方々。彼らは元々半額で見られるということで、申し訳ないのだけれどもお譲りする対象から外させていただくことに。また、美術館にやってくる人は大体2人以上のグループ。1枚だけの招待券では声をかけられない。一人で来ていても、アーティスト然とした、とんがったファッションの人にはちょっと声をかけづらい雰囲気がある。男性には逆ナンパみたいだし。(単なる自意識過剰ではあるが)結局、1人で来ている真面目そうな女の子にしようと狙いを定めていたのだが、想定したターゲットに遭遇するまでに約20分もかかってしまった。
展示の方はアブラハム・テニールス「猿の煙草嗜好団」(沢山の猿が煙草ルームで葉巻を吸うの図)「猿の床屋にネコの客」に、意表をつかれた。小品だが鳥獣戯画に通じるユーモアのある風刺画。
また、 ヤン・ブリューゲル(父)「小さい花卉画−陶製壷の−」のような精密かつちょっとグロテスクな花の絵が好き。枯れかけた花、虫まで丁寧に描き込まれているのもいい。この人に限らず、よくあるテーマではあるが、好きだからしょうがない。
目玉のフェルメールの「画家のアトリエ」の前は、平日というのに黒山の人だかりの後ろ頭ばかりが目に入るだけで、作品自体は上半分くらいしか見られず。押し分けて前に出る根性もなかった。新日曜美術館で森村泰昌があの絵に変身する回をちゃんと見ておいてよかった、よかったという感じ。
追記:「春 (アモル)」
春の田舎の風景を背にリュートを奏でる男が中央に大きく。装束は16世紀のネーデルランドのものだが、男は軍神マースであるという。3月の英語マーチの語源はマース。つまり古代において、春の植物の芽吹きは戦の始まる季節の知らせでもあったから。(冬は寒いし、何より兵士の食料が充分に確保できない)そんなことを勝手に思い出していたのだが、図録を立ち読みしたところ、このマースはビーナスの愛人としてのマースで、リュートで愛の歌を奏でているんだとか。愛も戦いも、生も死も一緒くたというか裏表であるよ、となんだか余計に感慨深く。