新宿の母

 常磐線に乗って、昔からお世話になっているKさんの新居を訪問。そこで初めてこの結婚の詳細にわたる真相が明らかになった。
 旦那様は別に占い好きでもなんでもなかったのだが、酔った勢いでその当時付き合っていた女性と新宿の母のところへ行った。そのとき言われたのが
「次の誕生日の出会いを大事にしなさい」
だったらしい。
 そして、その誕生日の日に大阪本社主催の研究職対象の研修の講師としてやってきたのがKさんだった。しかも、旦那様は営業職だったのに、たまたま上司に当日になって「面白そうな内容だから、お前も行ってこい」と、急遽、出席が決まったんだとか。それでも「どうせ講師はオバサンだろう」と思いつつ、行ってみたらそうではなくてビックリ。Kさんは、鈴木京香似の美女なのだ。
 研修後の立食パーティでは、講師であるKさんには話をしようと常に人が取り囲んでいた。けれども皆、自分が話をすることばかり熱心で、彼女が一口も食事が出来ないことには全く気が回らない。そこへ旦那様が料理を盛ったお皿をKさんにそっと差し出したところ、Kさんの方も「研究職の人でこんなに気がつく人がいるなんて、珍しいわね」と彼のことが印象に残った。
 翌日、Kさんが東京へ戻る前に、大阪で当時話題になっていた飲食店を視察することになり、そこで案内役に会社から指名されたのも今の旦那様。この半日大阪デート?のさなか、体調が悪かったKさんは、赤信号をふらりと渡ってしまいそうになったところを、旦那様がぐっと腕を引き寄せてことなきを得たなんてハプニングもあって、二人は急接近。そして、現在に至る…という。
「僕も、新宿の母の言葉がなかったら、料理の皿を差し出さなかったと思うよ。あの言葉が気になったから、どんな女性か興味がわいて、ちょっと近づくキッカケ作りをしてみたというか」
 こんな話って、本当にあるんだ。