年取った両親にデジカメ

年取ったなんていうと二人とも怒ると思うのだけれど。
両親は、揃って耳が遠い。元々、父の方は若いころにイヤホンをつけながら仕事をしていたからという理由があって、早くから片方だけ補聴器のある生活をしていたが、母の方はさしたる理由もなく、年を取ったからというだけで、急速に遠くなり今や、両耳とも補聴器。これは、娘である自分としては、かなり将来に不安を持っている。私も耳が遠くなる可能性大。
もちろん、補聴器のお陰で日常生活に不自由はしないのだが、耳の遠い人同士の会話、しかも元々『話を聞かない男 地図が読めない女』を地で行く夫婦は、小さな衝突が絶えない。お互い間違ったことは言っていないのだが、それぞれ話の一部づつしか聞いていない(聞こえていない)まま、そんなこと言ったの言わないのの話になる。
三者的には些細なことで、なぜあんなに母が感情的になるのか分からない。彼女によると、長年積もりに積もったものがあるからだと言う。父は父で、すぐ感情的になる母をちょっと見下しているというか、まともに取り合わないところがある。私も、母の感情的なところと、要領を得ない説明に辟易することは多々ある。けれども、オバサンの口コミ力というか、自分が行ったことはなくても、色んなお店や旅館、ホテルの情報を、お友達から聞いて正確に覚えているのも確か。辛抱強く聞けば、間違ってはいないことが分かる。
それで、揉めるたびに私に、
「こっちの方が正しい。こっちが被害者だ」
みたいなことを訴えてくるので、ちょっとウンザリする。自分のことしか考えていない娘で、本当に申し訳ないのだが。
ただ些細なことで口を尖らせている老夫婦というのは、恐ろしく客観的に見ると面白いと言えなくもない。それで、彼らが揉めているところを、そっとデジカメで撮影して
「“言い争いをする老夫婦の図”を撮ってみました〜。うひひ」
と、即、液晶モニタを見せる。これを何回か繰り返した。
私の持ってるデジカメ京セラファインカムSL400Rが、回転式レンズでちょっと珍しい形であることも手伝って、ブツブツ文句を言いながらもモニタを眺めて
「こんな顔してるの〜?」
と、驚いている。だって、カメラはウソをつかない。
「全くこの子は、こんなことして遊んで何が楽しいんだか!」
と怒りつつも、効果はそれなりにはあったようだった。けれども、やっぱりこんなことして遊んで、全くひどいです。私は。