カツラーの秘密

カツラーの秘密 (新潮文庫)
「旦那さん、“カツラー”じゃないよね…」と、職場のNさんが恐る恐る「でも、絶対面白いよ、これ!」と自信を持って貸してくれた本。作者は28歳にしてAD社(どこの会社か分かりますよね?)のカツラを購入、その後12年間に渡る「カツラー」体験エッセイ。カツラーであるということの日常がこんなに大変なことであるとは。出張で新幹線に乗っても居眠り一つできないし、温泉も、スポーツも心の底から楽しめない!ゴルフするのも、本当に一苦労です。
 それに、カツラって1枚50〜60万もするんですね。しかも、初回に一気に「周囲に気づかれないよう、段階的にボリュームを増やす」という理由で、3枚も買わされるとは。増毛・育毛キャンペーンは、結局、買わせるための入り口に過ぎず、毎月、会社が用意した理髪店で髪をカットするときは必ず勧誘を受け(新商品とか)、常にローン上限額いっぱいの状態で、他社への乗り換えもままならない。
 何よりも問題なのは、この分野に限っては「口コミ」も雑誌等による「商品比較情報」もなく、唯一あるのは「メーカーから一方的に垂れ流される大量のTV広告」だけということ。「カツラー」は「カツラー」同志に出会うこともないまま、一人で孤独に耐えるしかない現状。奥さん、または子供に秘密にしている人もいるとは、なんと不自由な。
 あぁ、それにしても「ハゲ」のままでも、「カツラー」になっても消極的にならざる終えないのが男の人生。女の私にしてみれば「そんなに気にすることでもないのに」と思うのだけれど、男性の髪の悩みは想像以上に根深いものなのだなぁと。とにかくこれからは「ハゲ」「ズラ」ネタで、不用意に笑ってはいけない…ではなくて、普通に話題にできるようなオープンな世の中にしてゆきましょう、ということで。そんなに「社会的に虐待」されるんなら、カツラーなんかにならなきゃいいじゃん、という意見もあるとは思うのだけれど、私は個人の自由意志は尊重されるべきだと思うのですよ。そもそも、ハゲだって「社会的に虐待」されてるし。
 作者ご自身は、SV社の製品に出会えたことで積極的なカツラーライフを手に入れられたようです。