ドレスデン国立美術館展 世界の鏡/国立西洋美術館

 ベルリン博物館島展と違って、こちらは比較的心穏やかに鑑賞することができました。日本の有田を筆頭に、東アジアの調度品、陶磁器が数多く収集されているようですが、それらは東インド会社を通して売買、または発注を受けて作ったもののようで、探検、研究と称する略奪による展示品がないから。

 設立の時期、および歴史というか目的が違うからでしょうか。こちらはザクセン公国が1560年に創設した「美術収集室」(クンストカンマー)に始まるものだそうで。古いです。

 最初の部屋には、計測、測量に関する文物が数多く展示されていました。ザクセン公子は帝王学として、これらを学ぶことが必須とされていたようで、公子自ら描いた透視図もあり。ここの歴代王様には、科学の知識があったというわけか。デューラーによる『測定法教則』挿図や、人体均衡論四書といった、芸術作品ではなく図解が見ることができたのもよかった。相変わらずの変態ぶり(木版なのに、超絶技巧的細い線)はさることながら、ものすごく科学のベースをがあって描いていた人なのだなと実感。

 ですが、一番印象深かったのは、トルコとの関係を表す品々。ザクセン公国とトルコは直接、領土内で対決したことはなかったものの、神聖ローマ帝国との関係上、戦いには大いに関与したそうで。

 当時のオスマン・トルコがいかにドイツにとって恐ろしい驚異であったと同時に、文化的に憧れの国でもあったという、アンビバレント感をビシビシ感じました。トルコ石をあしらった剣をはじめとするトルコ風意匠を取り入れた戦闘装備。イエニチェリ軍団をまんま模倣して、自分の親衛隊として組織した王様もいたり。

 一方で、別の王様はトルコにやられっぱなしなのに、自らをキリスト教国の代表者とみたてて登場させつつ、事実とは違う、トルコ軍に勝利する絵(小さな紙ですが)の連作を作らせたり。なにやら太平洋戦争中の日本国内の戦況報道みたいですが、親しい王侯貴族や連合国側の王に贈答するのが目的だったとかで。大した見栄っ張り???

 それと、ザクセン公国がもっとも栄えたときの王、アウグスト1世は、ルイ14世と同時代人でかつ、フランスラブな人だったということも忘れないようにメモメモ。若いころベルサイユで過ごした時期があったこともあってか、ことごとくルイ14世のまねっこをしているのが面白かった。肖像画のポーズとか。何かと記念コインを製作するところとか、そのデザインも似てたり。太陽と自分を重ねるところとか。

 でも、展示の盛装時のローズカット・ダイヤモンド装身具一式は、当時コレと同じものを作れるような財力はルイ14世とこの人しかなかったとあり、それはそれは迫力満点の粒の大きさ。こういうものを普段、見慣れていない一般ピープルには、あまりに粒が大きいものが沢山散りばめられていると、目がクラクラしてガラス玉にしか見えないのでございます。悲しい。

 メインと思われるオランダ絵画のコーナーは、個人的にはイマイチ。フェルメールの「窓辺で手紙を読む若い女性」も、いい絵だとは思うけれど「画家のアトリエ」ほどではなく。うーむ。何が違うのだろうか。

 レンブラントの「ガニュメデスの誘拐」はなんで、ガニュメデスは普通、すごい美少年なのにこんな赤ん坊みたいなちびっ子なんだろう、しかもおしっこ漏らしてるし…とかなり謎な作品。カタログの解説を立ち読みしたところ、一応、パロディーというか批判、皮肉が込められているんだそうですが。はっきりどう皮肉ってるのか指摘してくれないと、分からん!手に持っている桜桃が枢機卿のボタンを意味し…とか、匂わせてはいるのだけれど。

 サイトはこちら:http://www.nikkei-events.jp/dresden/index.html