フィレンツェ―芸術都市の誕生展/東京都美術館

 絵画作品が中心かと思いきや、壁画、柱、装飾品だけでなく当時のコインも含む金工作品、写本・細密画、織布作品、科学発明品などなど、ありとあらゆるフィレンツェルネサンス的なものを並べた、ミニフィレンツェ博物館状態。
 フィレンツェ好き、フィレンツェおたく?には、タマラナイものがあるだろうなと思うし、勉強にはなったと思いますが、絵画目当てで来た私としては、ちょっとガッカリ。
 とはいえ、今日もチケット売場前で見知らぬオバサマ2人組から頂いた招待券で、つまり、タダで見られたわけなので、よしとすべし。
 面白かったのはミケランジェロの『磔刑のキリスト』。展示は、ショーケースの中に、このキリスト像だけが宙に浮かんでいるようになっていた。十字架はない。つまり360度鑑賞できる状態。
 ミケランジェロは、人体解剖の経験があるそうで、骨格及び筋肉の流れにとてもリアリティあるんだとか。このキリスト像だと、特にお腹のあたりの、くぼみというかたるみあたりらしい。
 その辺のリアリティさは、素人にはよく分からないのですが、それよりも素人としては、キリストのお尻が見えたことが感動?でした。キリストの磔刑って、絵画でも教会にある像でも、どれも正面からのしか見たことがないですから。彼のお尻の薄い、生気のない肉付きがなんとも。
 それにしても、いつも思うのは、磔刑って、手足を釘で打って何時間も十字架にかけられるということは、自重で、釘を打たれた箇所には大きな穴が広がるんじゃないかなということ。ヘタしたら手のひらや、手首程度ならざっくり切れるんじゃないかと。
 筋肉や骨格のリアリティさは追求しても、そのあたりのリアリティはミケランジェロ先生も気にしなかったのだろうかと素朴に思うのです。そんなグロテスクな図は、神への冒涜になるんでしょうかね、やっぱり。
 キリストの静謐な表情は、芸術作品としては胸打たれると同時に、こんなの実際にはあり得ないとも思う。それこそが神の子の証なのかもしれないけれど。
 もう一つ、面白かったのは『出産の聖母』。お腹がせり出した、うすいピンク色をした当時のマタニティドレス姿のマリア様の全身ポートレート図。マリア様も受胎告知のような妊婦然とする前か、出産後の図ばかりで、妊娠中のってほとんど聞いたことがない。生々しいからでしょうか。
 硬く結ばれた帯紐は純潔の証とか、手に持った書物は受肉した神の言葉=キリストを表すとか、そういう隠されたメッセージも面白いけれど、何よりこのマリア様、あまり美人じゃないところがなんとも親しみを感じます。安産のお守りとして、洒落で友達にこの絵はがきをあげるのもいいなと思ったり。
 その他、印象に残ったのは、悪魔にそそのかされてマリア像に馬糞を投げつけて死刑になった男(実話)の、9コマ漫画風の絵。懺悔しても、死刑は免れないんですね。しかも、死んだ後の彼の魂を天使と悪魔で奪い合いしていて、つくづく気の毒。
 最後に、猿とセイレーンがモチーフの大きな大きなペンダントトップ2点が飾られていた。色とりどりの宝石と、大粒の揺れるバロック真珠が目立つデザイン。この展示ケースに、大勢の婦女子が入れ替わり立ち替わりベッタリと張り付いていました。そして、他の作品を見るのと目の色が明らかに違う。熱いまなざし。やっぱり紙魚のついた写本*1より、アクセサリーでしょうか。
 
 タダで入場できた代わりにこの本を購入。

図説 メディチ家―古都フィレンツェと栄光の「王朝」 (ふくろうの本)

図説 メディチ家―古都フィレンツェと栄光の「王朝」 (ふくろうの本)

 メディチ家の流れが、有名な絵画や建築物の写真とセットで解説されてるのでイメージしやすい。特に家系図肖像画の顔部分とセットになってるのはありがたい。

*1:写本は、個人的には結構、面白かった。そこに描かれている絵が、思いのほか退色なく、鮮やかで生き生きしていました。