女王フアナ

女王フアナ [DVD]
 カスティーリャ女王イサベルとアラゴン王フェルディナンドの間に生まれた次女にして、正当な王位継承者。息子は神聖ローマ帝国の皇帝にして、ハプスブルグ王室最大の領土を築くカール5世。
 にも関わらず、冠には常に「女王」ではなく「狂女」がつくお方。(原題も『狂女フアナ』だし。)ずーっと謎な女性でしたが、この映画でどんな人だったか、ざっとおさらいできるかと思ってレンタル。
 この映画での「狂女」の解釈は、彼女が夫の激しい女遊びにストレートに嫉妬や怒りを表してしまったことでしょうか。当時、男性の浮気を大目に見るのは当たり前な上、高貴な女性が負の感情を顕わにすることなど考えられなかったということのようです。
 そこから「あの女、頭、おかしーんじゃねえの?」と統治能力までも疑われて、夫の死とほぼ同時に政治権力を剥奪されて*1、死ぬまで約半世紀もの間、幽閉されちゃったんですね。現代なら“ちょっと怖いけど情が深くて、気性の激しい女”ですんじゃうんですが。うーむ。
 実際のところ、この人が本当に病的狂人だったかどうか、今もって分からない、解釈が分かれるところだそうで。(狂人的武勇伝?は数多くあるようですが。)
 それよりもやはり、権力闘争に負けちゃったってことですかね。夫は所詮、ハプスブルグからやってきた政略結婚の相手。彼の部下も一緒になって虎視眈々と国を横取りしようと画策。
 その上、後ろ盾であった母、イザベル女王亡き後は、アラゴン王である父親ですら敵ですから。皆が皆、彼女が狂女であった方が都合よかったということですな。
 イサベラ女王は、王女時代に周囲の思惑を振り切って、自分の意思でアラゴン王子と駆け落ち同然で結婚しちゃった人でした。その情熱があったからこそ、スペインの輝かしい大航海時代が訪れたわけですが、娘の場合、時代も変わって、情熱的な性格が災いしちゃったってことでしょうか。
 …とは言うものの。激しい独占欲を持った恋に一途な女子と、セクシー美男だけれど誠実さのカケラもない男子とのドロドロの愛欲絵巻物語にフォーカスしていて、権力闘争的な部分はツッコミが甘いなという感じ。
 当時を再現した衣装や、スペインの古城での撮影はとてもいいのですが、そういう意味ではイマイチ物足りない内容でした。
 無敵艦隊に乗って、フアナが故郷の地を離れてフランドルへ向かうそのとき、別れを惜しんで一番小さな妹が彼女に走りよって抱きつきます。この子が、おそらく後のキャサリン・オブ・アラゴン。イギリス王ヘンリー8世の最初の王妃。
 彼女は、男子が産めなかったばかりに疎んぜられて、ヘンリー8世は彼女と離婚するためにカトリックをやめて、イギリス国教会まで作る。離婚後は幽閉の身で生涯を終えるという、姉妹揃って男運が悪いというか、不幸なめぐり合わせです。フアナは立派な息子を生んだものの、幽閉された場所にカールが会いに来ることはなく、夫、父だけなく、息子にまで裏切られたともいえます。
 そして、ヘンリー8世の次の妃になるのがキャサリンの侍女だったアン・ブーリン。アンも男子は授からず、結婚3年後には夫によって処刑される。そして、彼女の産んだ娘がエリザベス1世
 エリザベス1世は、女の身でイギリスの統治は無理とばかり、臣下の薦めで沢山のお見合いをさせられるものの、結局どの国の男とも結ばず、自らバージンクィーンを宣言して、外国の干渉を一切排除する。フアナにエリザベス1世ほどの統治者としての厳しさ、割り切りがあれば…。
 こうやって並べると、大変な男女の権力闘争の歴史を垣間見えたような気がします(笑)。

*1:一応、父親であるアラゴン王との共同統治という、名目だけの女王の座は息子カールが即位するまで残りましたが