ローズゼラニウムの怪

 強風にあおられて、ベランダのローズゼラニウムを植えた素焼きの鉢が倒れて割れてしまった…。
 このローズゼラニウム、我が家に初めてやってきたのはかれこれ8年くらい前になる。オリジナルはこの春、やはり突然死してしまったが、挿し木でドンドン増えて、うちのベランダでも複数鉢があるし、友人知人親族にあげまくって、首都圏を中心に遠くは愛知県までその勢力を拡大している。過去に別のHPをやっているときに、こんなことを書いていたことを思い出した。世紀末のころだ。

 (前略)ローズゼラニウムの方の元は、更に1つ前の会社の近くにあった小さな商店の店先にあった大きく茂った鉢植えである。毎日その前を通りながら「なんて立派なローズゼラニウム!」と思い、ある残業で遅くなった夜、こっそり枝先をちぎって持ち帰ったものである。(はっきり言ってこれは犯罪行為。)
 ただ、これはもう言い訳に過ぎないのだけれども、とにかくそれはそれは立派なローズゼラニウムで、香りもその辺のハーブショップで売っている苗よりもよく、どうしてもコレが欲しい!こいつじゃなきゃイヤ!と思わせるやつだったのだ。それまでの私は、ローズゼラニウムなんてこれっぽちも欲しいとは思っていなかったのに。
 予想通りというか、盗んできた枝は挿し木するとどんどん成長し、一年で商店の店先にあったのと同じくらい大きくなった。ちょっと不気味だなと思ったそのころ、台風が来て、横に張り出した枝があっさりと折れてしまった。
 全部捨てるのももったいないと思い、また挿し木をすることに。するとまたしても簡単に根を張り、苗が成長して、台風が来て……ということをここ数年繰り返してきた。
 毎年挿し木をするために折れた枝を切り揃える時、あるフレーズが頭の中を駆け巡る。それは小説『リング』の中で高山が死の直前に気付いた貞子の目的、ビデオのダビング(=コピー)と、新たな第3者に見せることによるリングウィルスの「増殖」である。
 わざと台風の強風で折れるような枝ぶりにして、もったいないなと思う私の貧乏性な性格に付けこんでどんどん増えていく…。しかも狭いベランダを占拠されまいと、せっせといろんな人間に成長した苗をプレゼントし続けている。あぁ、そして今日もまた…。
 あるいは、小説『パラサイト・イブ』のEve1。「こんな風に“私”を増やしてくれる人を待ってたのよ〜」と商店の店先でじっと待ってたのかもしれないと思うとかなり怖いような気がしてくる。園芸が趣味とか言っていても所詮、彼女らにいいように操られてるだけなのかしらね、私。(後略)

 で、今回も台風による強風で倒れてしまったわけだが、割れた鉢の隙間を覗いてみると…驚くことに根が回ってパンパンの状態だった。去年の秋に挿し木をして、その後既に2回植え替えをし、そのたび毎に1回り〜2回り大きなものに変えているの関わらずだ。
 このゼラニウムの、これまでの貪欲な増殖意欲(私の単なる妄想とも言えるが)を考えると、不精な世話主にもっと大きくて立派な鉢へ一刻も早く移してもらうため、強風にワザと身をまかせるという強硬手段に打って出たのではないかと思えてしまう。そんなに風のあたるような場所でも、不安定な場所でもなかったし。で、コレを書いている時点で、既に植え替えが完了していて、まんまとゼラニウムの思うツボだったりするのですよ。
 怖い。実に怖い。さすがに今回折れた枝は、もう挿し木にはしませんでした。だって、この春の分で挿し木用の小さな鉢は既にいっぱいになってしまっているので。