債権者集会初体験…なのか?

参加していた写真教室が突然、倒産したのが02年10月のこと。催促されて、年会費7万円を支払った直後のことだった。そして、私は立派な債権者に。いや、自発的に債権者となるべく、手続きを踏んだのだった。


 会員は女性ばかり、およそ60人はいたと思う。しかし、誰一人、手続きは取らなかった。


 もちろん、被害額は人それぞれなので、少額ならまぁいいかと思う人もいて当然ではある。が、何十万という単位で教室の家賃を肩代わりしたり、アイルランド撮影旅行の費用を事前に振込んでいたのに、現地のホテルの予約はされていなかったばかりか、支払いの何もかも、先生の飲食分まで立て替えた(つまり二重の支払いですな)*1旅行参加者の人たちとか、お給料半年分未払いの事務の人とか、後になって聞けば色々いたのにも関わらず、だ。一流企業にお勤めの子が多かったから、みんな余裕があるんだね。


 それどころか、急にタイミングよく?癌で入院することになったこともあって「先生、かわいそう」ムード。このときほどお人良しというか「搾取されてることに気づかない女の子って多いんだな」と感じたことはない。


 癌になってしまったこと、そのこと自体はお気の毒ではあるが、それとこれとは別問題。違うか?

 その癌にしたって
「でも不幸中の幸いだよね。先生、今まで何の保険にも入ってなかったそうだったけど*2、ついこの間、○○さん(会員の人)のおかげで、診断書が要るところをなしで入らせてもらったところだったから、入院費用は大丈夫。よかったね」

 …はぁぁぁ???そんな裏技使わせておいて、直後に癌で入院だなんて、○○さんの会社での立場は大丈夫?そんな加入の仕方、そもそも実際にできるわけ?というかそれを「よかったね」って平然と笑ってるこの人たちの常識はどうなってんの?


 …昔の話は、もう止めにしよう。仰天話は、これ以外にも沢山ありすぎてキリがない。


 とにかく、負債総額数千万と噂される状況で、個人の7万が返ってくるとはこれっぽっちも思っていないのだが、一応、私なりの落とし前をつけたいというか、こんないい加減なことして許されると思うなよ*3、という意思表示と、社会勉強のつもりで、無料法律相談に通って、少しばかりの知恵をつけ、面倒な内容証明書を送ったりして債権者になったのだ。


 で、本日が債権者集会。こんな体験滅多にできない。と、あくまでも前向きな気持ちで霞ヶ関の東京地方裁判所に赴いた。(本当は体験しないで済むなら、その方がいいけど)


 建物に入ると、まず最初に飛行機の搭乗手続きをするのと同じ具合に、機械を通しての荷物チェックを受ける。「ここは一切撮影禁止です。カメラは絶対にバッグの外に出さないでください」と注意をされた。元より、そんなつもりはない。


 債権者集会の会場は3階にある。だだっ広い空間の中央に並べられたイスに、多くの債権者の方々が座っている。おぉ、青木雄二の漫画の世界を見るようだ、と、このときはちょっと期待に胸が膨らんだ。


 1時半から開始、と思いきや。「これから債権者集会を順次始めていきます。では、株式会社○○の件の債権者の方、1番テーブルへどうぞ」この部屋で処理されようとしているのは、一件や二件の債権者集会ではないらしい。


 部屋の隅には、会議室用の長テーブルを2つ向かい合わせにくっつけて番号を振られた「テーブル」が合計7つあり、各テーブルには、「裁判官」「破産管財人」「申立代理人」「破産者」そして「債権者」と書かれた三角形の名札が立っている。


 遠巻きにそれぞれの「テーブル」を観察していると、一件の債権者集会にかかる時間は平均で5分強であった。特に弁護士が早口にしゃべること、しゃべること!下手な役者よりよっぽど滑舌がいい。青木雄二の漫画に出てくるような怒号が聞こえるどころか、話し合いも何もなく、ほとんど弁護士が一方的にしゃべって、ちょっと裁判官がフォローを入れておしまいだ。債権者の皆様は予想をはるかに超えておとなしい方ばかり。


 待つこと25分。その間に、7つのテーブルはクルクルと入れ替わって、中央のイス席にほとんど人がいなくなったころにようやく「有限会社○○○と、▲▲▲(先生の名前)の件の債権者の方、4番テーブルへどうぞ」の声がかかった。

 しかし…誰も立たない。この件で、ノコノコやってきたのは私だけだったのだ。彼の破産にはいろんな会社が関わっていて、ヤクザまがいの取立人まで教室にやってきたらしいので、沢山の人がやってくるものだとばかり思っていたのだが。


 いや、そもそも25分間の観察で分かったのは、どの集会も出席している債権者はせいぜい、2〜3人がいいところ。社会的な影響の大きい、事件性のある倒産ではなく、ごく普通の倒産というのは、くどいようだが青木雄二の「ナニワ金融道」とか「カバチタレ!」みたいに、顔を引きつらせた人がわんさか押しかけてきて大騒ぎ…なんて世界ではなく、どちらかというと予備校主催の大学進学についての講師と親と受講生による三者面談みたいな雰囲気の中、粛々とベルトコンベアでの流れ作業の如く処理されているのであった。


 大勢の債権者の隅っこで、隠れるように参加しようという腹づもりだったのだが、先生(癌で大変だったはずだけど、まだお元気でした)の真正面、しかも1mも離れていない席に座ってるのはさすがに気が引けたので、まだ呼び出しのかかっていない債権者のフリをしつつ、そのうち誰か現れるのを待って成り行きを見守ろうとした。しかし、債権者の出席ゼロでもそのまま始まってしまった。

 そう、債権者集会とは、債権者不在でも行われるのだということをここで初めて知ったのだった。25分間の待ち時間の中でも、債権者ゼロの集会はこの一件だけだ。


 そして、私が出席するはずだったその集会は、4分未満という最短レコードで終了。1時半開始の債権者集会全体も、2時過ぎには終了した模様。で、結局、これで債権者集会を体験したと言えるのかどうか。

*1:先生は現地での支払いを全てクレジットカードで決済するつもりだったらしいのだが、この時点でカードの使用が差し止められていたらしい。そんな状態でアイルランドくんだりまで生徒を引き連れて行く神経が理解不能。彼は最終的に日本大使館にお金を借りて帰国。

*2:御年6ウン才で、ひたすらカメラマンという自営業を営んできて何の保険にも入っていなかったというのにもビックリした。

*3:お金の問題ではなく、写真家としての彼の姿勢に対して。具体的には書けないのだが、例えばアラーキーの女性関係がどんなにだらしなかろうと、彼のテーマは「エロス」だから、まぁ奥さんにはなりたくないけど、写真家としてならいいか、と思う。破産してしまったこと自体ではなくて、破産劇を通して初めて分かった彼の所業が、彼の公言していたテーマとやらと、全く矛盾してたから。