プリミティブ

立松正宏さん

 上野公園には、常に誰かしら大道芸人さんがおりまして、この日、通りかかったのは、最後の演奏に入る前の口上のとき。


 このお方は、世界中を自転車で渡り歩きながら、写真を撮ったり、文章を書いたり(雑誌に寄稿している)、オリジナル曲を作りつつ、自作の簡易木琴と、アフリカやオーストラリアの楽器を組み合わせて、独演奏活動をしつつ、自主制作のCDもあります、投げ銭よろしく…みたいなことを、結構、長々と(でも、面白おかしい口調で)語っているところだった。

 こういう場合、立ち去ろうとする人がいるのが普通なのだが、そういう人が誰もいない。むしろ、どんどん中心に向かって寄ってくる。


 サラリーマンのおじさんも、おばあさんも、大学生も、外人さんも、赤ちゃんまで興味深々な顔つき。それで、ついつい私も最後の演奏を聞く。


 右手左手、左右の足、それぞれ別の打楽器でリズムとわずかなメロディー、そして足首につけた貝の鈴が揺れて別のリズムを細かく刻む。オリジナル曲ではあるが、イメージとしてはアフリカとかポリネシアのプリミティブ音楽のような。

 ヨチヨチ歩きのまだ言葉も話せないような子が、木琴のリズムに合わせてキャッキャ叫びながら、はねる。こういう音楽は、こんな小さな子でも理解できるのだなと思う。


 終わった後、投げ銭用のヘルメットの前に短い列が。外人さんは、グレートだエクセレントだなどと、彼に声をかける。


 日に焼けて、体脂肪の低そうなお体と、飄々としたたたずまいを見ると、こういう生き方を実際にやれる人もいるんだなぁと、感慨深く。とても難しいことだとは思うけれど。