イタリア思い出し

 ずいぶん前になるけれど、8月、ベネチアでのこと。リド島まで冷やかしで足を運んでみた。リド島とは『ベニスに死す』の舞台になったところです。つまり、ヨーロッパの本当のお金持ちが集う高級リゾート。ベネチア映画祭の会場でもある。
 アドリア海に面した海岸のほとんどはホテルのプライベートビーチ。柵がしっかり立ってます。
 そのプライベートビーチとプライベートビーチの、ほんのわずかな隙間に立って、アドリア海を眺めておりました。
 すると、エクセルシオール(高級ホテル)のビーチから
「日本の方ですよね〜」
と二人の少年が近づいてきました。
 二人とも、年のころは高校生か、せいぜい二十歳未満。おそろいの白いシャツの胸をはだけさせ、黒のピタピタパンツ姿。まるで『特命係長 只野仁』のエンディングの高橋克典のよう。でも、顔は今の、じゃなくてジャニーズJr.時代のタッキーのような、それはそれは目の覚めるような美少年!
「このあたりで、ディスコがある場所を知りませんか?」
「僕ら、イタリア人のお世話になって一緒にあそこ(と、エクセルシオールを指差して)に3ヶ月ちかく遊学(死語!)してるんですが、ディスコどこにあるか分からないんです。日本語のガイドブック、見せていただけませんでしょうか?」
 二人は兄弟でも、仲のいいお友達でもなさそうだった。若いのに、お互いを「さん」付けで呼び合う。
  ガイドブックに、そもそもリド島についての記述はなかった。「やっぱり、書いてないから分からないですね。でも、ありがとうございました」と礼儀正しくお辞儀をして、去っていった。
 それにしても、不思議。3ヶ月も滞在してて、こんな小さな島の中のディスコの場所すら分からないなんて。第一、夏のリゾートにいるのに、二人揃って肌が透けるように白かった。
いったい彼らは何者だったのか…。