ピョンヤン・ダイアリー 1994-1997 [DVD]

 94〜97年なので、ちょっと古いといえば古い。けれども興味深いドキュメンタリーでした。
 飄々としたオーストラリアの中年女性監督が、北朝鮮の案内員(外国人が観光するときには必ずついてくるガイド兼監視役とでもいうか)とともに体当たり?でピョンヤンを中心とした、当時の北朝鮮をビデオテープで撮っています。撮影許可が下りなかったところは、彼女のナレーションのみ。
 なので途中、ナレーションと映像があっていない不思議なシーンがあるのですが、それもまた一つの現実なのだなと思いました。
 オーストラリア人の監督(訂正:オーストラリアに生活の拠点を置くノルウェー人監督でした。)になぜか「ノルウェー音楽のテープを持っていないか?」としつこくたずねるピョンヤンの図書館職員。蔵書数や、何千人かが同時に利用できる席数を誇らしげに語っていましたが、監督に「ノルウェー音楽の要望が高い(?)のに、一つもない。テープはコピーしたら必ず返すから」と平気で言えちゃうあたり、自慢の蔵書はコピリものばかりなのか、とか著作権に対する意識は国家規模でないのかなとか。
 板門店も、最前線を韓国側と北朝鮮側と両方で撮影しており興味深いものがありました。
 また観光地(金正日の生家?)のガイド女性にインタビューし、ガイドさんが答える(朝鮮語・日本語字幕)のを、案内員が監督に向けて英訳するのですが、より思想的な方向へ意訳されてたりとか(笑)。(訂正:通訳兼案内員に「これ適切じゃないから、うまく訳してね」と言ってたのは、ピョンヤン撮影所の女優さんでした。気になって見直してよかった。若くてかわいい娘さんの区別がつかなくなってる。怖い、怖い。)
 でも、まぁ、当たり前なんですが、北朝鮮の普通の人は、普通、というか私たちと近い感覚を持った人たちなんだなと。
 プライベートなこと(家族、恋人)に関する質問には、時にはうれしそうに、時にははにかんだ笑顔(東アジア共通ですね)で答える。
 そして、政治の矛盾点を付かれると、敢えて答えない。さらりと流す。多分、分かってるんじゃないかと思います。板門店に立つ兵士も、やっぱり普通の人でした。軍事パレードの映像ばかり日本で見ていると、ただただ怖い人に思えてしまうのですが。
 そういう意味で、日本で最近流される北朝鮮映像は独特の張り上げた声でニュースを読み上げるアナウンサーとか、マスゲームとか、喜び組とか、(食料事情の悪さをカバーするための)ヘンテコ料理番組とか、物乞いしてる人とか、行き倒れてる人とか…。
 それも事実であることは間違いないのですが、何と言うか報道の仕方が少々意図的で嫌な感じがすることがあります。得体の知れない、危険な人間ばかりの集団であると認識させようとしてるとでもいうか。
 ずいぶん昔ですが、実は過去に2回、北朝鮮の人に出会ったことがあります。
 ポーランドのクラコフであった、かつて京都大学に留学していたという老学者たち。学会の発表のためにクラコフに来ており、スケジュールはガチガチに決められているようでしが、その日は観光日だったようで、ご一緒にどうですか?と、国家がつけてくれたポーランド人ガイドさんとともに観光しました。青春を過ごした京都が今、どんな風に変わってるのか知りたがっていらっしゃいました。
 スウェーデンのマルメでは、今風に言うならチャン・ドンゴン似のモスクワ大学留学生と。試験休みを利用して、鉄道で来たと言っていました。私のことを韓国人と思って声をかけたらしい。
 残念ながらそうではなかったのですが、久しぶりに同じ文化圏、黒い髪の女の子とお話ができてうれしかったと、心底喜んでくれました。(ロシア人社会で生活するのは、それほど精神的にキツイことなんだなとも思いましたが。)もちろん、はにかんだ笑顔で。
 穏やかで普通の人たちでした。