金で解決できるやりたいことはやり尽くした、と語る人

 その「東京人生」展で声をかけられて、見知らぬ初老の男性と両国のシャノアールでお茶をするなんてことになったのは、彼が特異なオーラを放っていたからに他ならず。それは1ヶ月前、20年ぶりに再会した中学のクラスメイトのSの放つそれと全く同じ性質のもので、世代こそ違えど、この世にこれほど特異なオーラを放つ人物に、間を置かずに2度も出くわした奇蹟!に驚いたのと、彼とSに共通するものは何か?という興味が沸々と抑えがたかったから。

 
 誘導尋問をしたわけではなく自然の流れで彼の口から「金で解決できるやりたいことはやり尽くした」ことと「これから全く別のことをやりたいと思っているところ」という話が出てきたのには感動すら覚えた。Sも同じことを語っていたのが印象的だったからだ。


 久々に会ったSは経営者として地元ではちょっとした有名人、成功者になっていた。仕事は順調、お金もジャンジャン入って、買いたいものは買いつくし、やりたいことやりつくし、「お金使うだけでできることには飽きちゃったの」と。


 一方、シャノアールの初老男性は自称「バブル紳士」。*1そのお陰で今までお金の苦労はしないで来れたそうなのだけれど、バブル期の札片で他人の横っ面を叩きまくった数々のエピソードは中々面白くて、面白すぎてホントかいな〜と疑ってもいて、だからここには書かないのだけれど。


 お金を湯水のように使えても、振り返れば大して楽しいことではなかったんだね、というのが彼らの表情から見て取れて。むしろお金を沢山集めるということ、同時にばら撒くことは、お金と一緒に他人のむき出しの欲望、あんまり見たくない、見せたくない暗い部分をも引き寄せてしまうのだろうかとも。


 「バブル紳士」の方は使い方の汚さから、それは想像がつくことなのだけれど、Sの経営する婦女子(しかも充分にお金を持っててヒマな)が集まる高級美容サロンは、色んなウワサやら、事件の真相やら、利害関係についての裏話等々を女たちが落とす集積場のようで、それがSの元来の皮肉屋さん気質に一層の磨きをかけさせた遠因になっているようだった。とにかく好むと好まざるとに関わらず、いろんな話が入ってきて、それぞれはそれぞれの立場でしか物事を考えずに一方的に語るのだけれど、Sはそれぞれの本音による全体像が俯瞰できてしまう立場になってしまった、ということだ。


 なんというか「色々見てきたけど、人間なんて所詮こんなモンよ」的冷ややかさと、何かが部分的ではあるが決定的に壊れてしまったがゆえの、完成してしまった“渇き”、それが表情や言葉の端々に出てしまっている、それが2人に共通していることのように思えた。

 

 そう言えば山咲トオルを初めてみたとき、なんて目がクリクリしてかわいらしい、Sに顔立ちが似たヒトかと思ったことを思い出す。毒気の強い山咲トオル、それがS。彼は田舎の中学校でオカマのSと呼ばれ、私はオトコオンナのa2004*2で、だから二人は大層仲良しさんでも、全くウワサにならないというか、実際何もなくって、記憶しているのは「a2004ちゃんはね、一応オンナのコなんだからもっと注意しなきゃダメなのよっ!」と振る舞いについてしょっちゅう説教されてたこと。


 ああ、そうだ、Sは皮肉屋だったけれど優しい人間だった。彼もバブル紳士も確かにお金を沢山得て派手に使うことができた、が世の中にはもっともっと上がいて、激しい使い方をしている人間はいる。結局のところ、「金で解決できるやりたいこと」というのも個々の人間によって違う。Sも自称バブル紳士も、回ってきた金の量に対してヒトとして優しすぎたのだろうか。

*1:ホントかいな〜。でも、身なりはそんな感じだった。

*2:男勝り女子と思われていた、ということなんだけど。