雪の日に

近所

 せっかくの大雪だから…とカメラを持って、家の周りとちょっと離れた公園をふらふらとさまよう。

 普段は通らない住宅街の細い道。どこからともなく聴いたこともないような演歌が流れている。窓から漏れてくるなんてかわいらしいものではなく、窓を全開にしているとしか思えないほどの大音量で、有線のように曲を変えつつ延々と。

 広い空き地に、雪が積もって頭が垂れ下がった背の高い野菊の花があったので、上手く撮れないものかと立ち止まる。すると突然、「ほぇ〜ほぇ〜ほぇ〜」という声が。

 声のする方向は、空き地の隣の古いアパート。その2階で玄関ドアを開け放ち、痩せたおじいさんがこちらを見てたたずんでいた。仙人のように長く伸びた白髪と白いアゴヒゲを、吹き上げる風で雪とともになびかせながら…しかも全裸。

 正確には前のところは黄色いタオルのようなものをちょこんと当てているのだけど。

 大音量演歌もそのおじいさんの部屋から流れていたのであった。

 結局、野菊は撮らず、その場は静かに立ち去ることに。おじいさんは白い粉雪が吹きすさぶ中、演歌の音がかすかにしか聞えなくなるほど遠く離れるまで、全裸のまま見送ってくださったのでした。身の危険…ではなく「寒くないのか???」で頭がいっぱい。大雪の椿事。

 それにしても、雪の日の散歩の犬たちは一様にいそいそしてるんだろう。素足で寒いだろうに、という話を知人としていたところ、彼曰く
「犬の嗅覚は人間の数倍。雪が降ると、空気がきれいになって、余計なにおいがしなくなるから、犬としてはものすごく鼻がすっきり!快適なんじゃないか」
 本当のところはどうなんでしょうか?

 公園で、飼い主の雰囲気から察するに普段はしっかり躾られているであろうレトリバーが、人が足を踏み入れない新雪の積もったエリアを見つけて嬉しそうに突っ込んでいった。飼い主は引っ張られるがまま。