アジアのキュビズム 境界なき対話/東京国立近代美術館

 既にこの日で終わっている企画展*1。でも、面白かったのでメモ。

 キュビズム、それを「発明」したピカソやブラックは偉かった…のかもしれぬが、結局のところそれは1つの「様式」に過ぎないのかもしれないと痛感。

 まず、最初のコーナーに置かれた静物画。ピカソの作品か?と思えるほど、立派にキュビズム。(ピカソの本当のキュビズム静物画もあったけど)「発明」は大変なことかもしれぬが、マネするのはそれほど難しくないってことか。

 いや、そもそも「発明」なのか?という疑問(妄想)も。

 どんどん展示の歩を進めると、キュビズムがアジア各国で進化していく様子が見えてくるのだが、アジアって元々平面的な表現方法が伝統なんだよな〜という思いが浮かぶ。切リ絵、影絵、バディック、イカットなどの植物の文様に、朝鮮民画の独特の空間の歪め方(以前に何でもゆがんだ平行四辺形?のような形に配する絵を見たことがある)。それらはもう一歩、押し進めれば、幾何学文様による構成物になるんじゃなかろうか。(一歩進むか進まないかが大きな違いなんですけど。ええ、それは分かってます。分かってますが。)

 なので、展示されていたキュビズム作品は全体としては、それぞれのお国の伝統工芸や美術の名残がちらほらしつつ、調和の取れた穏やかな感じ、静謐さを不思議と覚えた。無理なく描く対象を取り込んでいる、消化してる感じとでもいうか。

 うーむ。ピカソのそれとは違うんだなぁ。

 例えばピカソキュビズムで描く人物像って、何となく私には、掌底でガーッ!とモデルをキャンバス叩きつけて、大きな木槌で殴りつけながら一生懸命、均している感じがある。木槌で大雑把にゴンゴンやるので、ヘンテコに潰れてたりするのだけれど、それが味になってたり。
 
 モデルの方も生きがいいというか、抵抗も甚だしいので、キャンバスに格闘の血しぶきやら、まだ完全に死に切れず(立方体に収まりきれず)、例えて言うなら、端の方で尻尾が最後の断末魔のようにピクピク動いてるようにも見えたりで。

 そんなこんなで疲れちゃったからかどうかは分からないけど、彼がキュビズム作品を作ってた時期って実は、そんなに長くはないらしい。解説によると、1910年前後のわずかな期間とか。しかもモチーフは、ほとんど静物(人物像も少ない)と極めて限られているとか。

 ところが、アジア(当然、日本も含む)の国々は、内省的な自画像に、風景画、宗教画、歴史画、何でも描くんですな〜。キュビズムで。


 面白いなと思ったのは、それぞれのお国でキュビズムが取り入れられたタイミング。時間が経ってしまったので、年代はうろ覚え過ぎてここにはかけないのだが、それぞれのお国が独立やら、民主化運動が盛んになったとか、そいう時期に符合するように、キュビズムが発展しているところ。つまり、アジアに置いてキュビズムとは、単なる新しい絵画表現というより、(対象を幾何学的に分析し、再構成するという点が科学的なので)近代的な物の見方や考え方を端的にあらわす雛形として受け入れられたのである、とこの企画展は提示しているのであった。実際、新国家を担う希望に満ちた労働者や、生活者たちの図…みたいな作品もあった。確かに、工業化社会って幾何学模様で捉えやすいという面もある。

 うーむ。ピカソやブラックは想定外だっただろうなぁ。こんな思想的な取り入れられ方。いや、私もビックリ。でも、なるほどなぁと納得させられる内容でした。

 ところで。

 調和的である…と先に書いたけれど、フィリピンのそれはちょっと異彩を放っていたと思う。(もちろん、ピカソのそれと比べれば調和的なんだけど)

 なんでかなぁと考えるに、西欧によって明らかに支配された、という歴史があるということか。ほぼキリスト教国だし。

 ものすごく強烈な色彩だったり、力強さがあったり、西欧絵画における王道テーマ(宗教画(=キリスト教画)、歴史画)の作品が多い。とても面白いし、私はどれも素晴らしい思った。チラシに使われたアン・キューコックの「磔刑」とか。

 でも、スペイン人でいそう(実際にはいないと思うけど)とも感じてしまう自分自身が微妙。と、ここで、そういえばピカソはスペインの人と思い至る。あー、不思議な一巡。

 画像はフィリピンのヴィセンテ・マナンサラによる「フアン・ルナの『血の同盟』」。

 1565年、フィリピンを統治したスペインの初代総督ミゲル・ロペス・デ・レガスピが艦隊を率いてボホール島へ上陸、当時の島の酋長シカツナはレガスピを受け入れ、事実上のスペイン軍の支配とキリスト教を受け入れ、両者が互いの腕を傷つけて流した血をワインに落して飲み干したという史実を元に描いた19世紀末のフィリピンの国民的画家フアン・ルナの「血の同盟」をキュビスムの様式で変奏させたポスト・モダン的ともいえる異色作…だそうです。

 近代美術館の「アジアのキュビズム」ページ:http://www.momat.go.jp/Honkan/Cubism/

 解説はちゃんとしていて、分かりやすいです。個人的に残念なのは、サイト上に使用されてる作品(の中にもいいものはありますが)より、もっともっと展示にはいいなぁと思える作品があったということ。単に私の好みでない、というだけかもしれませんが。

*1:しかも超地味!最終日の休日に行ったのに、人手の少ないこと…。ゴッホ展が夢のよう(遠い目)。