マルセル・デュシャンと20世紀美術/横浜美術館

 ある1つの作品を除いて「そりゃ、言いたいことは分からなくもないけど…」の世界だった。これだけ沢山の著名な作家に影響を与えたわけだから、偉大なのだとは思うけど、彼自体の作品はどうかな、という感じ。
 美しい!とか、見るだけで、触れるだけで心に刺さるようなものを求める即物的な人間にとっては、解説がなければ成立しないような作品はどうにも退屈なのです。
 やっぱエポックメイキングな「泉」(便器にサインだけしたやつ)だけは、アート史に残る遺物として見とく価値はあるのかな〜とは思ったのだけれど。それだけで何の感慨もなく。
 デュシャンに影響を受けたという作家たちの、もろ影響を受けたと思しき作品群も、元ネタ(デュシャンの作品)がなければ、なんだかさっぱり分からないものはつまらないし、元ネタを知らずとも成立するものは、面白い。例えば、リヒターの階段を下りる女性の写真とか。(タイトル失念)
 でも、最後の展示「与えられたとせよ 1.落ちる水 2.照明用ガス(遺作)」は、面白かった。のぞき窓から中をのぞく仕掛けなのですが、かなり衝撃的な内容です。デュシャンじーさんのエロスとタナトスが炸裂。いい意味で。
 そして、彼のそれまでのレディメイドという思想を、死ぬ間際に自身で打ち壊してしまっているという意味においても。レプリカなのがちょっと残念ですが。
 常設展示は前回と変わらず。日本画における幻想的な風景コーナーが、ちょっとイカレ気味でいい。中島清之「凍夜」。モノトーンに玉虫色で描かれる夜の梅の花が、蛸の吸盤みたいで怖い。近藤弘明「霊炎」。恐ろしく美しい三途の川を連想。