シモーヌ

シモーヌ デラックス版 [DVD]
 世界初のCG女優(ありとあらゆる女優からいいとこ取りした完璧な声、完璧な顔、体を持った上、決してワガママは言わない!)シモーヌをめぐる物語。
 アル・パチーノふんする落ち目の映画監督が、わがまま人気女優の代わりに、完璧な女優「シモーヌ」を主演に起用すると、たちまち映画は大ヒット。だが、世間は目の前の「監督」ではなく、姿を現さない(だって、実は存在しないのだから)ハリウッドセレブ「シモーヌ」に夢中になり…。
 「アイドル」は偶像なわけで、それを考えると生身のハリウッドセレブも、CG女優も変わらないといえば既に変わらないのかも。この映画で、マスコミがシモーヌを執拗に追っかけまわすのも、生身の俳優にインタビューするのも、「あの人はこんな人」という予想の確認して納得したいというか、既に(実態は何であれ)イメージが決まってるわけで。
 その大衆が勝手に持つイメージの暴走というか、実態のないものが実態を持ってしまう過程、それに振り回されるアル・パチーノが面白かったです。
 シモーヌが歌手デビューも果たし、初めてのステージ(ホログラフィ)シーンでは、実態のないものに向かって手を振り熱狂するファンというのがものすごく奇妙に見えます。一人をだます(一対一で対面させる)より、大勢をだます方が簡単、とは名言。
 一方で「俺が作品を作るのは、俺を認めてもらいたかったからだったのだ」と気づく、表現者としてのアル・パチーノが切ない。シモーヌの演技や台詞回しは100%監督の動きを模倣したものなのですが。
 
 また、劇中劇ならぬ、シモーヌ主演の映画中映画3作の完成版を見てみたい気が。青またはグリーンのフィルターの掛かった世界、シンプルなセットに、シュールなシモーヌの演技。抽象的な芸術映画のよう。
 3作目の「私はブタ」(シモーヌ人気をわざと落とすために作った映画)で、泥まみれの四つん這いになってブタと一緒にえさを食べるシーンがあります。
 それを見て映画の中の観客は「(あまりの悲惨な状況に)なんて体当たりの演技をするのだろう」と、涙しながら見ているのですが、この映画の観客である私は、でもCGが演じているという設定だから…と冷めてみてしまう。
 いやちょっと待て。やっぱりこの「シモーヌ」役自体は生身の女優さんがやってるわけで(時々、逆にCG処理をされてぎこちない動きをしますが)、それを考えるとこのシーン、やっぱり大変だったんじゃなかろうか、とか。頭の中がややこしいことこの上なし(笑)。
 ちなみに「SIMONE」は、CG女優プログラム「simulation one」の略で、更にIとOは、1と0。うまく考えた名前です。さすが、『ガタカ』と同じ監督。