戸田正寿「HEIAN」展 /東京都写真美術館

 そして、作りこみの苦労が尋常じゃなさそうな作品といえば、こちら。
 白木の箱にアルビノの鯉が入っているポスターを見て「コマーシャルフォトみたいな、あざといキャッチーな写真」と勝手に思っていましたが、そんな甘い作品ではありませんでした。またしても反省。
 明るく影のない場所に置かれたオブジェ(ほとんどが白木で作られたシンプルな棚や箱。撮影用に設計されたもの。)に、ランチュウとか、鯛とか、ミツバチ、蛙の卵、イモムシが置かれていまして…と言葉で説明しても、何だかサッパリですね。はは。
 伊勢神宮とかの奥の奥で行われている、生命創造の秘儀の装置を見ているような気がしました。確かに「静寂と瞑想」(解説の言葉)の境地。日本の神様(気配だけで姿は決してみせない)のいる世界のような。白木の木肌がなんともしっとりとした、女性の柔肌みたい。
 うす曇の日中の光で撮影しているらしいのですが(影が殆どないのはそのため)、それが日本画のような効果につながっているようです。
 ですが、イモムシくんたちや、カラスくん、ウサギちゃんが、おとなしくオブジェの中の定位置にたたずむわけもなく。
 会場の片隅に置かれたボードや冊子によると、少量の睡眠薬を使用したり(それでも、ウサギは本当に眠ってしまうと耳がたれてしまうので、薬の加減がものすごく難しかったとか。)、イモムシは5〜25分間冷凍して眠らせ、起きるまでの数分の間に済ませるとか、大変さがしのばれます。