ターミナル

 ネット懸賞でラッキーが続いているらしいS嬢がゲットしてくれたチケットで。感謝。
 全く言葉が通じない。コミュニケーションができない。論理が通じない。そんな環境に陥ってしまったら。
 基本的に笑って泣けるファンタジー。けれども物語の始まりで、そんな恐怖が身にしみました。
 東欧のクラコウジア人のトム・ハンクスが、彼自身の責任ではない特殊な状況下で、アメリカに入国することも国に戻ることもできなくなる。観光でもビジネスでもない目的で来ているため、英語は全くできない。(必要最低限のセンテンスを丸暗記しているのみ)
 ベルリンの壁崩壊前に、東欧を旅していて少し似たような目にあったことがある。スロバキアの地方都市で「お前のビザは今晩の零時に切れる。だから、ホテルから出て行け!」と、真冬の零時直前にたたき出されたとき。*1
 明け方4時台の列車しかチケットはないと言われ、トボトボと深刻な石油不足で街灯ひとつない漆黒の闇に包まれたルーマニアの田舎町を3km離れた駅に向けて深夜歩いていたら、不審者と思われたのか町の共産党本部の警備兵に銃を突きつけられて拘束されたとき。*2
 ちょっと間違ってたら、どうなっていたことやらと。トム・ハンクス役も、状況が全く理解できないまま、空港職員の勝手に、都合のいいようにに流されていく。
 でも、言葉を失う(単に語学の問題だけでなく、文化その他何から何まで未知の状況下に置かれるということ。)は、本当に人を無力にさせる。トム・ハンクス役の男性が、最初、間抜けっぽく見えて笑いを取るのだが、東欧やロシア人ってダサーい、ということではなく、そういうことだ。無力にならさるおえない。だから英語がしゃべれるようになった後半、彼がスーパーマンのような活躍をしだすのも、ファンタジーだからといえばそれまでなんだけれど、言葉やルールをマスターすることで初めて、その人らしく振舞えるということでもあるかなと無理やり思うことにする。やっぱり、活躍しすぎ(笑)。
 で、これアメリカのJFK国際空港の話なのに、なーんで私、バリバリ共産時代の東欧のことばかり思い出すのか。
 そう、世界一の国際空港での9ヶ月に渡るお話なのに、ロシア語話せる職員が一回も出てこないんである。この映画では。大昔の東欧諸国だって、空港やホテルの人は英語が話せたのにね。
 でも、アメリカ人ってホント、どこへ行っても英語しかしゃべらない、相手も英語しゃべるのが当たり前だって思ってる人が多い気がしないでもない。前にいた外資系の会社のエクスパッツたちは、何年こっちで生活しても、片言でも日本語を話す人はいなかった。会社の費用で何年も週2ペースで日本語個人レッスンを受けても、一言も日本語しゃべらない部長もいたっけ。覚よう、使おうという気はサラサラないんだ。
 とはいえ、その会社に勤めている際、(長年いた日本企業と比べて)アメリカっていいなぁと思えることもたくさんあった。
 例えば、仕事上であいまいな、グレーな部分を作らない、ということや、ルールに人を合わせるのではなく、現状に規則がそぐわなくなったと見れば、さっさとルールを変えようとすること、とか。その点では働きやすかった。(逆に、厳しい面でもあるのだが。)
 なのにここの空港警備局の人は、テロ厳戒態勢の中、9ヶ月も無国籍状態の男を放置したままってのは、ちょっとどうなんでしょ。法の落とし穴で処置しようがないとか、自分の管轄内で問題を抱えるのがいやだと言う理由があったとしても、現状に即して臨機応変に対応するのがアメリカのいいところだと思ってたので。これじゃ、かつての融通の利かない共産圏の職員と同じ???
 まぁ、これはファンタジー映画なので、そういうツッコミは野暮というものですな。
 トム・ハンクスは、ある意味E.Tです。不思議の国(星)からやってきた、ピュアな人(宇宙人)。で、警備局の偉いWASP系の人(支配層=大人)ではなく、空港を底辺で支える移民の職員たち(被支配層=子供たち)が力を合わせて彼を助けて国(星)に帰そうとする話。

 ラストの捨て身のインド人清掃員にちょっと泣けそうに。有り得ないエピソードでも、ああいうのに弱いのです。

*1:取得ビザの期限は確かにそうだったが、48時間以内に出国すれば延長手続きは踏まずともよかった。それを最初のホテルのオーナーは、英語ができる人であっても、半狂乱のパニック状態になっていて聞く耳を持っていなかった。不法滞在の西側外人を置いていたことが発覚したら、どんな恐ろしいめにあったのだろうか???結局、やっぱりノープロブレムだった。

*2:全く英語は通じなかったが、身振り手振りと、手帳に列車の絵を描いて理解してもらった。彼らとは、直後に忘れられない面白い出来事があるのだが、それはまた別の機会があれば。