ユルい世界

 週末に近所の温泉に行くことが恒例となっている。そこは老人天国。客だけでなく、チケット窓口、売店の店員、番台の人、お掃除係…運営しているのも高齢者ばかり。
 売店自動販売機を何度か利用した。けれども、予想通りのドリンクを飲めたことがない。
 キリンの高濃度トマトジュース缶のボタンを押すと、サンガリアのたっぷりトマトジュースが、サンガリアの手軽に緑黄色野菜を押すと、伊藤園の緑の野菜 モロヘイヤ&果実ミックスが、伊藤園お〜いお茶を押すと、全く無名の会社の緑茶飲料が…と言う具合。驚異の不一致度。毎度、スリルがあります。
 そんな冗談はさておき。
 ずっとこれでやってこれてしまうのも、苦情を言う人がいないということか。提供する側も、消費する側もトマトジュース、野菜ジュース、お茶…という区別さえちゃんとしていればいい世界。企業名やブランドや、小難しいコンセプトなんて、どうでもいいことなのかもしれない。
 自販機提供飲料メーカーとしては、これだけ沢山の他社ブランドに同時に使われるのは想定外だし、商品見本と不一致だなんてルートセールスマンが聞いたら、仰天しそうな話ではあるが。
 同時に、ここは浴槽の中で、赤ん坊が気持ちいいなぁとばかり、キャッキャとお湯を叩いてしぶきを上げても、目くじら立てて怒る人はいない。周りは子育て経験のあるおばあさんたちばかりなので、むしろ目を細めて、若いお母さんと赤ちゃんを見守っている。小さな子供連れを冷ややかに受け止める電車の中とは全く違う世界だ。
 どっちがいいとか悪いとかと言うことではなく。普段は片方の世界でしか生きていないので、とても新鮮に映るのです。