[Memo]愛の栄光

女装する甲斐庄楠音

 10/27のid:honchausさんのコメントに興味を覚えて甲斐庄楠音(かいのしょうただおと)の『春宵』(http://members.jcom.home.ne.jp/hakushou/kaishou01.html)を検索しているうちに、色々と面白いことが。

『横櫛』3作:http://members.jcom.home.ne.jp/hakushou/yokogushi-3.htm
 左は『ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)』の表紙にもなっている『横櫛』。右は私が実物を見たことのある『横櫛』。じゃ、真ん中のは?

 真ん中のは画家が生涯でただ1人愛した“女性の恋人”がモデルらしい。
両親公認の仲だったこの女性は、結局、年の離れた実業家と結婚。画家は振られちゃったようでして。画家の立場からすると、金色夜叉ですな。

 腹いせに画家は「この女は毒婦である」と言いたいがため、背景に歌舞伎の“切られお富”を書き加えた。(つまり元々は牡丹だけだった。)
 けれども、晩年になって“切られお富”を外し、和歌を書き添えたり、加筆修正し、最終的に落ち着いたのが右の絵らしい。

 ただし、実際のところ本人が「そうだ」と語ったわけでなく、研究者やファンがネット上で色々と、唐突に描かれている“切られお富”の謎(しかも現存はしない)を巡って、色々推察しているだけです。が、面白い。

 50過ぎてまで「実業家に強姦されてそこに嫁ぐことになった」などと昔の恋人のことで法螺を吹く画家の性格の悪さ?から、真ん中のは恋人自身が毒婦である、ということを強調したかったのではないか…と想像されているようなのですが。

 “女性の恋人”とワザワザ書いたのは、画家はそもそも男色家のようでして、彼女と平行して男性の恋人もいたとなれば、彼女が結婚に踏み切れなかったとしても、ムリなかろうというもの。

 「毒婦」とされるお富さんだって、惚れた男が要求するものだから犯罪を繰り返し、挙句、全身刀傷だらけになる女性。全くお富さんも、恋人の人も両方、気の毒というか、いい迷惑というか、そりゃ違うだろう!というか。

 左の絵だって元々、『処女翫浮名横櫛(むすめごのみうきなのよこぐし)』を見て、感銘を受けた画家が、いっしょに見に行った兄嫁モデルに描き上げたものつまり、お富さんの格好をさせていると考えられているものなのです。タイトルも横櫛ですし。振られるまでは、お富さんのことも結構、気に入っていたんじゃないのかな、画家は。
 しかも、正確には生前に取ったデッサンを元に、モデルの死後、描き上げたようでして。つまり、左の絵は故人なのです…。

 そして後に「穢い絵」と称される『春宵』のような、グロテスクなシリーズは、恋人に振られた後に突如、描かれて。

 …とまぁ、妄想のオンパレードで、真偽のほどはともかく。

 これだけ愛憎にまみれた“伝説”を持つ画家の作品は、やなり岩井志麻子に嵌っているなと改めて思うのです。表紙に選んだ人は、スゴイ。

【参考】甲斐庄楠音研究室:http://members.at.infoseek.co.jp/kainoshou/index.html