ダンスの人

職場の近くの路地裏でバッタリ出会ってしまった大学時代の友人と、やはり近所のビストロで待ち合わせてランチをする。楽しみと言えば楽しみだったのだが、面と向かって話をするのは卒業以来。どんな会話をしたらよいのやら…と思っていたら。
「昔さ、ダンス部のレッスンに誘ってくれたよね」
と彼女。そんなことあったっけ???
「あの時は、入部しなかったけど、社会人になってからダンス教室に入ったんだよ」
なんとなく思い出してきた。私は体育会競技ダンス部に入っておりまして(映画『Shall we dance?』の世界です)、彼女を一度、誘ったことがあったみたいだった。で、彼女はお勤めしながら週1回、3年間通ったこととかを話してくれまして。
それでつくづく分かったことは、意外に彼女がダンス好きだったということと、別所哲也がハムの人なら、彼女にとって私は「ダンスの人」という認識だったんだなということ。他人から自分がどう思われているかは分からないとは一般論でよく言われることだけれど、今日は本当に分からないと思った。実感として。人は他人の情報の一部だけを都合よく切り取って、その人全体にしてしまいがちなのだ。
「…でもさ、私、ダンス部は2年の半ばで辞めてるんだよね」
「え?」
腰を痛めて、医者から止められました。何でも私の腰に近い背骨は元々一般よりもキツメのカーブがついているそうで、ハイヒールをはいて後ろ向きに走るような運動は、腰への負担度合いが最悪なんだとかで。
彼女は1年の時同じクラスだったという繋がりだから、その後、学内で会って話をすることはあってもダンス部を途中で辞めていた話は知らなかったらしい。私は学生生活通してダンスに熱心だった人ではない。1年半くらいしかやってないわけだし。
逆に私の方の彼女に対するイメージというのは「女オタク」。何故かというと、お金ないと言いながらも、当時、1人だけパソコンを持っていたから。今でこそ当たり前のようになってますが、15年以上前に大学生で、しかも文系女子で個人所有してるやつなんて、珍しかったのですよ。
それもまた、私がそれほど「ダンスの人」でもなかったように、なにか思い込みなのかもしれない。いや、その可能性は大。
それは、次回のランチで確かめることにしよう。互いにお仕事ある身、1時間きっかりでは、たいした話が出来ない。多少の意外性の発見を含めて、今日のランチはとても面白かった。彼女自身の話ももっと聞きたい。