ロスチャイルド家の上流マナーブック

 ロスチャイルド家の上流マナーブック―ナディーヌ夫人が教える幸せの秘訣 (光文社文庫)
 手書きの店頭POPの
「“船旅のマナー”も学べます!」
にもかなりミーハー心を刺激されましたが、著者のナディーヌ夫人は、決して上流階級のお嬢様ではなく、パリの小劇場の(多分、売れない)女優から、ロスチャイルド家の跡取りと結婚。名実ともに女主人となった後、この本を書きました。そんな人の書いた本って、どんなものだろうかとさらにミーハー心をくすぐられて、購入。
 女優時代に、たまたま楽屋に置きっぱなしになっていた古いマナーブックを熟読していたことで、厳しい義母チェックも合格。見事お嫁入りを果たしているのはずなのですが、時々、その後のちょっと恥ずかしい失敗談や、「これは○○大使館夫人に教えていただきました」と人から教えてもらった方法が添えられていることから、そこはかとなく彼女の苦労が偲ばれます。
 また、さすがフランス。「愛人といっしょに暮らすマナー」という項もあります。これは、夫の愛人ではなく妻の愛人のことです。ただし著者は、愛人を作ること自体は積極的に勧めてませんが。
 このように、かなり実用的かつ具体的アドバイスが多いのですが、全体を乱暴にまとめると立派な「女主人になる」ための本でした。「女主人になる」とは、二通りの意味があって
 1つは、自分の人生の主人公は自分である、という意味での女主人。
 この部分は、かなり庶民の私にも参考になりそうです。とはいえ、いつものことですが、読むだけでお腹いっぱいで、満足してしまいそうな予感100%ですが。
 他者と関わりを持つためのマナーというプロトコルを通して、人としての生き方論に近い内容が全体の半分以上という印象です。まず、なによりも1番に「自分と付き合うマナー」という項目があって「自分を大切に、自分を軽視ぜず、自分を好きになりなさい」とやさしい口調でおっしゃる。深いです。庶民にもかなり勉強になります。そして何より、合理的、現実的、まっとうな指摘が多いです。建前ばかりが並んでいるなんてことはないです。
 もう一つは文字通り名家の「女主人となる」こと。
 人を招いたり、招かれたりすることが多い生活のようなので、この本でも個別の章立てとして最もページ数が割かれているのは、テーブルセッティング、食事のマナーと料理関係です。特に料理やワインの情報の記述の細かさに驚くと同時に、使用人がいる生活だからこそ、的確な指示を出すために、女主人には彼らと同等かそれ以上の知識が必要なのだろうと、読み取れました。人を使うのも楽じゃないです。
 フランス式、またはロスチャイルド家風とでもいうか、必ずしも、グローバルスタンダード?な様式ではない部分もありそうなのですが、だからこそ、まとめ役としての女主人の重要性があるといえそうで。これが、家風・伝統を守るってことでしょうか。
 そういえば先日のデンマークの女王様も、毎日、料理長と食材と料理についての交換日記のやり取りをしていましたっけ。名家の女主人とは立派な“職業”なんだなと思いました。
 けれども、ロスチャイルド家のテーブルセッティング、パーティーに招く、招かれたときのマナーなどは、お呼びがかかる可能性は0%としても、ちゃんと覚えておけば、例えば映画の見方が少し変わるかもしれないなと思いました。パーティでの人の紹介の仕方、され方など
「そーいえば007シリーズでも、そうだったよね」
と思い当たる節もあったりして。