私は一体何処にいるのだろうか in 町田③
ルノアールのその席に決めたのは、開いている禁煙席がそこしかなかったからだったのだが。
隣の席にいた30代後半と思しきサラリーマン2人が大きな声で話をしているので、いやでも耳に入り、仮眠どころか全く落ち着かない。
「あの人さ、最近、やったら中国出張が多いと思ってたんだけどさ、女が出来てたんだってさ」
「やっぱさ、中国駐在員なんてさ、ほとんどいるんだよ。女が。日本人よりいいって言っててさ、将来を本気で考えてるだってさ」
2人の間柄は取引先同士で、それぞれ中国ビジネスをしているらしい。彼らの話によると、中国人女性は月4〜5万くらいのお手当で大喜びでお相手をしてくれるので、大学生の息子への仕送代月15万よりも、中国にいっぱい女の子を囲ってた方が楽しいよなーとか、その後もお手当の送金方法とか、中々普通では聞くことのできないお話を大声で続けてくれた。*1それにしても、なんとまぁ、都合よく解釈されたお話(ファンタジー)ですね。
20年近く前に成都の立派なホテルのロビーで、周囲に日本人など1人もいないだろうという気の緩みからか日本語、しかも張り切って大声で
「この辺で女、買えるとこ知らないかー」
と中国人フロントマンに尋ねているグループを見かけたことを思い出す。私自身、今よりずっと若かったこともあって、とても恥ずかしいものを見た気がした。中国人しかいないから構わない、旅の恥はかき捨て?その考え自体が更に輪をかけて不快さを増している。
後になってそのグループと同じエレベーターに乗り合わせたとき、
「へー、日本から1人で来てるんですか。もしよかったら私達と一緒に夕食を食べませんか?」(なぜか上品な日本語)
と、貰った名刺は大手商社のものだった。もちろん彼らは、私があの現場を遠くから見ていたことを知らない。
それにしても、なぜ、日本のサラリーマンオヤジは昔も今も、何でもかんでもデリカシーなく、大声でしゃべりたがるのだろう。それはカイシャとは、話の中身よりも声のデカイやつの方が常に勝つところだからなのか。
午後6時になった。電車に乗って家路に着くことにした。次の駅から向かい合わせの席に座った中学男子が、おもむろに鼻をほじり、鼻くそを丸めると、その指を口に入れて、舌先で舐め、またおもむろに鼻をほじり…を無心に繰り返していた。帰宅ラッシュ時間帯で周囲に人が大勢いるのだが、全く意に介しておらず、信じられない光景。
目のやり場に困ってふっとホームに視線を移すと、メガネをかけた大学生くらいの男の子が唐突に後頭部からまっさかさまに倒れる瞬間だった。またしても驚きの光景。幸いにも、頭がホームにつくより先に膝が崩れたので、次の瞬間、反射的に手をついて大事に至ることはなかったようだった。あれも熱中症だったのか。
家に到着したのが午後7時。テレビをつけると、ちょうど曽我ひとみさんとジェンキンス氏が熱い抱擁とキスを交わすところだった。あぁ、そうか、やっぱり曽我さんのメンタリティは彼と連れ添って、アメリカナイズドしていたのだなと改めて気づいた。ちょっとビックリしてしまうのは、彼女の生活を想像してこなかっただけのことだ。
長くて暑い、不思議な一日がこうして終わったのだった。
*1:彼ら自身はウソをついていないのかもしれないが、お手当ての相場など含め、どこまで実際にそうなのかは分からないから、頭からは信じないように。