再考 近代日本の絵画/第一部:東京藝術大学大学美術館 第二部:東京都現代美術館

 1900年から2000年にかけて製作されたものを中心に約650点もの作品を上記2会場に分けて展示、日本の絵画100年の歴史を振り返るというもの。サブタイトルが「美意識の形成と展開」。この「美意識」を「キレイ、素敵!と思う基準」なのだろうかとボンヤリと考えておりましたが、そんな甘い展示会ではありませんでした。反面、予想外に刺激的で良かったです。
 最初の展示室のテーマが「博覧会美術」。解説を乱暴に要約すると日本の近代絵画(美術)とは、当時まだ列強諸国と比べると貧弱な工業製品に代わって、外貨獲得の有力な輸出品として国家事業として始まったと。海外の万博に出品した際、外人受けするようにエキゾチズムを意識したモチーフ。*1大会場での展示栄えを考慮したためであろうタペストリー並に巨大化した掛け軸。奇抜な意匠。新しい時代の始まりに、旧時代のモチーフで取り組む矛盾。前から聞いてはいたけれど実物を目の前に、身も蓋もない出だしがちょっと衝撃的でした。(だからと言って、チャチというわけではなく、それぞれに面白い作品なのですが。)
 個々の作品についての感想は別にあるのですが、全体を通して一番感じたのは「近代化ってイタい作業なんだな」ということ。最も分かりやすいのは山本芳翠*2「浦島図」ではないかと。竜宮城から玉手箱を貰って帰還途中の水上図なのですが、太郎を送りだすタイやヒラメの精は西洋画のニンフそのものの装束で、乙姫様も貝の上にのってボッティチェリのヴィーナスのよう。その貝の船を西洋画での海の神獣イルカに引かせ、ポセイドンと思しき男が先導する。背後にうっすら浮かぶ竜宮城はベニスの街のよう。ヘタではないのですが(むしろ、力強く上手い絵です)、何かこう哀しい気がしてしまうのです。時代が違うからと言えばそれまでなのですが…。
 そんなこんなで油絵が全体的に落ち着いて見られるようになるのも、大雑把に1910年以降、つまり(明治末から)大正期以降というのも絵画が作家個人のイマジネーションから来るものとはいえ、世の中の流れを反映しているのかも、と勝手に推測したり。展示は時系列ではなくテーマごとなので、本当に私の勝手な感想ですが。
 今まで近代美術館の常設展で見てきた作品も多く展示されていましたが、このように編集されているとまた違った楽しみ方ができるというのも発見でした。
 ただ、やはり上野と清澄白河、離れた2会場を1日で回って約750作品(現代美術館の常設展も合わせて)を見るのは、あまりに疲れる作業で頭の中が整理しきれず、復習しようと図録を購入したのですが、この解説部分がまた予想外に興味深い。買ってよかった。
 挨拶的文章の次に、セゾン現代美術館館長の6ページにも渡る長い長い文章から、実際にこの企画を立ち上げたのはこの人なんだなというのが分かります。「現在の日本はどこか間違っている」で始まる内容からは、真摯なメッセージがあるように感じます。
 しかし、セゾン館長が辻井喬の最新の詩を何度も引用しながら熱く語った直後に、文芸評論家が「モダニズム再考にあたっての一視点」いう文章の中で「資本主義は資本主義への抵抗をそのものを資本主義化する」と書いていたりで…なんだかスゴいことに。偶然なのか皮肉なのか。
 また、最後の展示室「絵画の世紀」の解説が、読みようによっては「『日本ポップ』(一つ前の展示室)を除いてしまうと、最新の絵画にコレというものはありません」的なことを書いていて、じゃ、あの部屋を「なんだかつまらないなぁ」と思ったこと自体が意図なのだろうか?とか。
 100年間を単純に時系列で追いかけたり、名品列伝的な展示会ではないのですが650点もあるので、名品も数多くあります。けれども、逆に650点もあるのに「なんでこの人が入っていないのか?」と思うような作家もいて。例えば東山魁夷がないのは、今神戸で大回顧展やってるからかなのか、またはこのテーマで区分仕切れないほどの大物だからなのかとか。村上隆は無視してるのか、2001年以降と解釈してるのかとか、興味はつきず。
 芸大美術館の隣の東京都美術館でやってるフェルメールや、現代美術館のもう一つの企画オノ・ヨーコ展と比べるとはるかに地味ですが、とても面白い展示でした。なんといっても、人が少ないので休日でもゆったりと見られるし、コレだけ日本の作品をまとめて見られる機会はないから。(それもヘンな話なんですが。)
 セゾン現代美術館サイト内 「再考 近代日本の絵画」http://www.smma-sap.or.jp/modernism.htm
全体の内容はここのが一番分かりやすそうです。6/20(日)まで。
 展示とは関係ないのですが、現代美術館内のレストランの経営母体がこの春から変わったせいなのか、以前と違ってお客の入りもよさそうで、店内には美味しそうな匂いが漂っていました。次に来るときはランチでも食べてみようかと。

*1:これって、ある意味今年のベネチアビエンナーレで「萌え」をテーマにするのと同じ現象なのだろうかとか。じゃ、まだ近代は終わってないのかとか。

*2:イギリス人に長らく師事していたそうで、西洋人が見た日本的作風が特徴であると図録にもありました。