欲望

欲望 [DVD]
 元々原題「Blow up」は「(写真の)引き伸ばし」という意味らしい。公園でのカップルの仲睦ましいスナップ写真。女の方が執拗にネガを渡せと写真を撮った主人公に迫ってくる。異変を感じてカットを凝視するうちに、女の視線の先、公園の柵の中等どんどん周辺を引き伸ばしていくうちに、主人公はあることに気づく。
  60年代のロンドンを舞台に新進ファッションフォトグラファーのデカダンな日常。オシャレなアート系と不条理モノの融合映画、だったと思う。(弱気)
 映像はスタイリッシュでとてもキレイ。特に、一種独特のロンドンの街(決してピカデリーサーカスとか分かりやすいアイコンは出てこないが、そこがまた良い。)と写真家のスタジオの重なったグレーのガラスごしのアングルとか。それと当時の風俗、音楽も面白い。モッズって、今はオシャレっぽく語られることが多いけど、当時としては単なる若気の至りというか、アホでクレージーだったんだなぁとか。(だから悪いというのでもない。若者今も昔も変わらずでいいんじゃないかと。昔の若者はスマートでオシャレだったというのもヘンだなと。常に新しいものは当時としてはヘンなものだ。)
 でも、話はというと…よくわからんのです。全部が主人公の夢とも考えられるし、そうではないともいえるし。謎のヒロインは、キャラ自体定まってないし。最初、貞淑系と思いきやレコードを聴くうちに、急にワイルドなイケイケ系になったりとか。街中で忽然と消えたり。
 で、ネットで色々他の方々のレビューなどを見てみたのだが、面白いことに、さまざまな捉え方が見られる。主人公の一つとっても「報道写真家」だったり。スタジオの隣の家に住んでいる平凡な女は、主人公の妻なのか友人の妻なのか、両方の説があるし。少なくともこのアマゾンの解説のしょっぱな「深夜の公園でカップルを盗み撮りした売れっ子カメラマン」の「深夜」は違う!「昼間」だ!!!
 …というわけで、意外なところで人間の記憶や認識の曖昧さを見せ付けられた映画でありました。まさにこの映画的。
 ただし、ラストのパントマイムのテニスシーンはどの方も(そして私も)、印象に残る名シーンだと認識しているようです。また、写真を引き伸ばしていくと、トンドン粒子が荒くなって抽象画のようになっていく様は、自分がレンタル暗室でプリントをする時のことを思い出してしまった。