ウェイキング・ライフ

 ウェイキング・ライフ [DVD]
 主人公は起きているのか、寝ているのか、はたまた生きているのか死んでいるのか?それすら最後まで分からないお話です。なんのこっちゃ?
 この映画の面白さを言葉で正確に伝えるのは難しいです。アニメというか、実写で音声と映像を取って、その後にデジタルペインティングを施しているようです。実写を元にしているはずですが、ことごとく分解されていて絵のようです。けれども、例えば冷蔵庫を開けると、反動でドアが少し戻って主人公の腕にに軽くあたる、というような実写ならではの細部の動きに、単なるアニメにはない妙なリアリティが残っていたりします。背景が微妙にいつも、ユラユラ、グニャグニャと揺れていて、世界そのものが生き物のようであります。また、複数のクリエーターが、それぞれの個性をあらわにしたまま、作画しているようなので、シーンごとに絵柄のタッチが全く異なり、なんと主人公の姿形さえも違います。そんな摩訶不思議な映像に、なぜかタンゴの音楽が合っています。意外。
 主人公の男子(推定二十歳前後のアメリカ人)は沢山の人と出会います。そして、彼らの話を聞きます。話はコミュニケーションや、夢に関する独特の考察、またはもっと抽象的な哲学めいた内容のようですが、話し手はほとんど一方的に主人公に向かって早口にしゃべりまくります。その上、先に説明したようなかなり特殊な(魅力的な)映像もしっかり見ておきたいので、字幕を追うのも大変です。
 セリフ自体、かなり難解で、結局半分も分かってないんじゃないかなと思うのですが、この映画、開き直って、それでいいんじゃないかなぁという気もします。他人との対話を通して、「いつか目覚めることができなくなるその日まで」、世界について思いをめぐらせること、自分とは何かを考え続けることそのものがテーマなのかなと想像するから。今、全てを分からなくてもいいのかなと。
 考えてみたらこの監督の『恋人たちの距離(ディスタンス)』も、対話がテーマといえそうな物語でした。ジュリー・デルピーイーサン・ホーク、ほぼ二人だけで丸1日、人生とか恋愛感などをしゃべり続けていたような。二人の再会の約束が果たされるのかどうか、ちょっとやきもきするようなラストだったので、この映画の中でこの二人が相変わらずちょっと変わった会話(私の今は、死を控えた老婆の回想のような気がするだとか)をするカップルとして登場してるのを見て、ちょっとニンマリ。

追記:『恋人たちの距離(ディスタンス)』(原題:『Before sunrise』)の続編『Before sunset』が6月にアメリカで公開されることをつい先ほど知ったのだけれど、なんと9年後の世界で、イーサン・ホーク(の役)には結婚して子供まで…と言うことは、再会はなかったってことか。現実的ですな。