永遠のマリア・カラス

 永遠のマリア・カラス [DVD]
 とても面白い良い映画、だと思う。思うんだけどなぁ…。
 ファニー・アルダン演じる昔のような美声がでなくなって苦悩するマリア・カラスが、カルメンを演じ、それをまたファニー・アルダン演じる創造の意欲を取り戻したマリア・カラスが、自ら演じた先のカルメンを否定するものの、創造の意欲を取り戻したファニー・アルダン演じるマリア・カラスはショー・ビジネスの世界では否定されて日の目を見ない、という話。ややこしい?
 もし、マリア・カラスという人がこの映画で描かれているような人だとしたら、ずい分ヒドイことをしてるんじゃないかとも思うわけで。今の自分の演技に若いころの声をのせた新作オペラ映画「カルメン」を発表することを結局は止めた誇り高い人なのに、その自分の若いころ声を前面に押し出して別の女優で自分のドラマを作り上げられるなんて。考えすぎかもしれないけど、喉に刺さった小骨のようにちょっとだけひっかかるのですよ。
 でも、ファニー・アルダンは私の大好きな女優の1人だ。この映画でも、カラスのイメージを保ちつつ、彼女らしいゴージャスでエレガントな感じも出ていてよかった。クラシックなシャネルのドレスでびしっと決めたお姿は、女でも惚れてしまう。結局のところ、私の「小骨ひっかかり感」もファニー姉さんの、50代とは思えぬ色香と超ど迫力の演技に押しまくられて「まぁ、どうでもいいか」と骨抜きにされてしまうのです。この話、カラスの再起はなかったということになるのだけど、前半にファニー姉さんによるカラスの葛藤がきっちり描かれていて、その上で決断を下しているので、ほろ苦くも清々しい幕切れになっている。
 また、劇中オペラ「カルメン」その他も、衣装から舞台装置まで一切手抜きなし。この監督は、自分がカラスの「声」を使ってオペラを撮りたいだけなんじゃないかと邪推しますよ。ホント。
 それにしても。DVDの特典映像で監督は「マリア・カラスの生の舞台を見ると、歌の持つパワーに引っ張られて身も心もボロボロになって回復するのに3日間くらいかかった」というようなことを語っていたが、まるで曽田正人の漫画「昴」でスバルちゃんの踊るバレエを見た観客の感想そのまま。あれは漫画の世界だと思っていたけれど、現実にもあるってことですか?と心底ビックリ。CDは持っているけれど、そこまでの感じは録音されたメディアからは伝わってこない。
 動くマリア・カラスということで、彼女の唯一の主演映画「王女メディア」は見たことがあるけれど、体全体から湧き出る異様な存在感は確かにあったなぁ。それと目力とでもいうんでしょうか。にらむような目の表情がかなりおっかない印象。でも、彼女が歌うシーンは一度もなく。うーん。やはり、リアルタイムでないと楽しめない、理解できないこともあるということか。本当に残念だ。
 ところで。映画の中で何度か「ノルマ」というオペラの「清き女神」という歌が流れるのですが…あぁ。タモリ倶楽部を毎週欠かさず視聴している私は当然、「空耳アワー」も楽しみにしているのですが、年に一回の「空耳アワード」にまでノミネートされるほどインパクトの強い作品として、フィリッパ・ジョルダーノの歌う「清き女神」を見てしまって以来、オペラ「ノルマ」の生舞台でも、この「永遠のマリア・カラス」のラストの感動的なシーンでも、私の耳にはどうしても「あーのイボー痔、あーのイボー痔、あああああああぁ〜〜〜」*1と聞こえてしまう。タモリ倶楽部のおかげで、一生このトラウマは消えないのかと思うと少し憂鬱。
 

*1:本当はイタリア語で「(清き女神よ)どうぞ、そのかげりない明るい面を、わたくしたちにもお見せください」と歌ってる。