黒猫・白猫 

 黒猫・白猫 [DVD]
 へぼ詐欺師のお父さんが、あまりのへタレっぷりに悪い方悪い方へ物事が進み、ついに全財産を巻き上げられた挙句、借金のかたにお祖父さん思いのまともな息子をマフィアの妹と結婚させなければならない羽目になるが…。
 98年のユーゴのコメディ映画なのだが、観た印象はフェリーニ寺山修司に、ちょっとガルシア・マルケスの小説も思い出した。ロマの人々のコミュニティ。大木に大きな実のようにぶら下がったまま音色を奏でる音楽隊、ボロ車を食べ続ける大きな豚、身長1m、バストも1mくらいの花嫁、お尻で釘を抜く巨漢の(ピンク・フラミンゴのディヴァインを彷彿とさせる)女歌手、手榴弾はボンボン投げつけられて爆発し放題、殺人もあり、ひまわり畑で一枚一枚脱ぎながらあんなこと!したり、おじいちゃんは突然死んだり、生き返ったり自由自在?中世とまではいかないけれど、時が止まっているような場所にも、少しずつ波が押し寄せている。結婚式のお祝いにはルームクリーナーなど電化製品が沢山贈られるし、マフィアの鼻歌はアメリカのロック。お祭り騒ぎのような混沌の中に、土臭いたくましさとか、いかがわしさとか、愚かさとか、笑いとか何もかも、けたたましいロマ音楽に包まれて、物語は(特に後半が)猛スピードで突っ走っていく。あんなに沢山のアヒルがしょっちゅう画面の中を行き来するのも珍しい。羽毛が飛びまくる。(ジョン・ウーは鳩だけど)
 ただ、やはりエミール・クストリッツァはこの一つ前に作った「アンダーグラウンド」(生涯忘れられないラスト)があまりに強烈過ぎて、物足りない。比べなきゃいいのか。
 ラストに“HAPPY END”とクレジットが出るが、手放しでそうなのか?かなり微妙。旅立つ若者カップルはドイツ船に乗って「太陽のある」世界へ、残された人々は「太陽のない」コミュニティの中で、それでも生きていく。これまでと変わらず。