獅子座

 アマゾンはこのところ「エリック・ロメール Collection DVD-BOX 1 (獅子座 / 六つの教訓物語) 」を激しく“おすすめ”してくる。一度も観たこともなければ、名前さえ知らない監督だ。実は私は獅子座生まれだったりするが、アマゾンのカスタマー登録に誕生日はなかったはず。知られていたら、むしろ怖い。どういうワケで“おすすめ”するのか気になってしょうがないので、買う代わりにレンタル。
 主人公はパリの獅子座生まれ中年太り独身男。40の誕生日を一ヶ月半後に迎えようとしている自称作曲家。ええ年こいて定職もなく、金持ちの友達とつるみながら、日々遊び暮らしているような人物だ。これは、彼ほど近くはなくとも40才へのカウントダウンが始まった私へのアマゾンからの「こんなんじゃダメだ!」という警告なのか?。独身という部分を除けば、結構似ているではないか。(あ、お友達も特にお金持ちというわけではないが)
 そんな彼は、大金持ちの伯母さんの遺産相続の話が急に持ち上がって大はしゃぎするものの従兄弟だけの単独相続の間違いだったりして、それどころか文無しのホームレスにまで転落する。ところが従兄弟自身も死んで、遺産を全てゲット。8月22日(獅子座の最後の日)に、めでたしめでめでたしめでたしでFin。アマゾンは私に「どうせなるようにしかならないのだし、人生適当に」と言いたいのか?アマゾンの意図は結局よく分からないまま。
 ところで。主人公が最初住んでいたアパルトマンからの街の眺め。オープンカーに乗って繰り出した夜のにぎやかな通り。アパルトマンを追い出された後、ホテルを転々としながら、金策のため街を歩き回るその道すじ。ホームレスになった後も、盗みを働いたり、道行く人々を観察したりする街角。1959年の作品だが、去年、訪れたパリで見たものと変わらなかった。主人公が宿代を1万フランほど滞納したホテルは、ネットで予約をする際、最後までどうしようか悩んだセーヌ川に程近い安ホテルだった。サイトでの宿泊者評価の通り、ロケーションはいいけど部屋の中がメチャクチャ狭い。泊まらなくてよかった。
 主人公がどこの道をどういう方向に歩いているかも分かってしまう。そのくらい店の名前も建物の概観も変わっていない。およそ半世紀も前の映像なのに。その変わらなさ(都会特有の人の冷淡さも含めて)に改めて気づかせてくれた映画だった。物語の粗筋を書くと、なんだかなぁという感じだが、これは筋を追う映画じゃなくてパリ(セーヌ左岸地区限定ではあるが)の光と影の両方を主人公と一緒に歩くように体験できる面白い映画だと思った。
 …と、ここまで書いたところで、ふと。まさかアマゾンは私がパリに行ったことがあること、この映画に出てくる場所を歩き回っていたことを知っていたのだろうか。だとしたら怖い。実に怖い。