ミリオンダラー・ホテル ASIN:B00005Q81H

 ビデオのパッケージに使われているカットが、あまりにも魅力的で借りてしまった一本。それは物語の始まりでもありラストでもある「ミリオンダラー・ホテル」の屋上シーンだった。
 100分の上映時間中、95分までは「ベルリン・天使の詩」と「パリ、テキサス」が好きという程度の、つまり私のような特別にヴィム・ヴェンダースのファンというわけではない人間が見るには、ちょっと辛いかなぁと思っていた。
 ところが、95分を回ったところで仰天!イジー、あんたはティム・ロスだったのかっ!?全く予期しない展開だ。
 断っておくが、これは謎解きミステリーではなくて、愛を巡るファンタジー映画。世の中に見捨てられた人々の吹きだまり「ミリオンダラー・ホテル」の屋上から男が飛び降りて死んだ。その男がイジー。映画自体はイジーの死んだ後の世界だ。彼の死を逆手にとって、勝手に幸せを手に入れるためのホテル住人たちの悪戦苦闘ぶりは、それなりに面白いし、役者の演技もかなりいい感じなのだが、なにか全体としてしまりがない。甘ったるい。
 ところが、最後に唐突に登場したティムが退屈も何もかもをかっさらっていった。イジー、あんたはヒドイ男だよ。2重3重の意味で。そしてティム・ロスは怖い人だ。演技時間実質1分で、がらりと流れを変える男。どうしようもない孤独を背負った感がにじみ出て、どんなに悪い男の役でも憎み切れない。主人公だけじゃなくてアンタも悲しい、せつないねぇ、イジー。彼のおかげで、甘ったるいメルヘン話が一気に、残酷なおとぎ話へ。
 これはもう意外にもティム・ロスを観る映画だった。ミラ・ジョヴォヴィッチの美形さとか、いつもとは様子の違う松方弘樹ロボコップを足したような風貌のメル・ギブソンを観ながら、あくびをかみ殺して最後の最後までがまんする価値はあり。 
 それにしてもエンドクレジットにも、公式サイトにも彼の名前はナシ。どういうことだろうか?返却後、改めてビデオパッケージの裏を念入りに見たら「イジーティム・ロス」とあるから間違いないと思うけれど。それにしても、気が付けば「ヤツ=ティム・ロス」がいる状態。今は狙って観るときもあるけど、そうじゃないことが元々は多くて、怖い怖い。この役者、何度も見るけどヘンだなぁと思っているうちに名前を覚えた、それがティム・ロス