人を評価するのは難しい

 随分前に少しの間だけ採用の仕事をしていた時があったが、果たして自分自身が、会社が応募者にパンフレットや広告で訴えて望むような立派な社員であるかのかどうか、考えてしまった覚えがある。
 今日、仕事先で「この業界・企業でこの『採用テスト』が使われている!20005年版」(ISBN:4896917731)という本を渡され「帰るまでに、この本に載っている以外の、新卒採用テストを探せ」という仕事の依頼を受けた。中を見て、数の多さにまず驚いた。私の会社は採用方法は面接中心と方針が決まっていたので、それほど知らずに済んだということもあるし、私が新卒だったころも、こんなに沢山のテストはなかったように思う。クレペリンくらいか。
 そのクレペリンテストの評価が、列ごとの計算終了時点を結んだ曲線の形にあることを初めて知って驚いた。計算はあっていようと間違っていようと全く関係ないという。
 この本にはそういった今まで応募者には謎とされていた心理・適性テストの評価基準と、応募者の対応策が載っている。例えば、以前からSPIにはうめた解答数を母数とし、その中で間違った解答を子数とする誤解答率(仮)*1というマイナスチェックがあるので、正解が分からない問題は記入するな、と言われていたという。ところがこの本は、その噂は間違いであるので、分からなくてもいいから選択肢から何でも拾って解答欄にうめておけ!と断言している。
 ペラペラと一通り読んだ限りにおける、素人ながらの感想は、まずは「大学生は大変だなぁ」だった。今まで本屋の就活コーナーに山と積まれている各種「対策本」を見ても「こんな付け焼刃なことしたって、無駄」としか思っていなかったが、テストで高得点を挙げるにはテクニックが必要そうなことは充分に理解できた。むしろ基本的な知識・教養を豊富に持っていることより、テクニックを知っていることの方のが高得点に結びつくんじゃないかと思えるほど、この本の言い回しには強気の勢いがある。内容の使えそうな度合いはともかく、何かこう知ってないと乗り遅れるんじゃないかという妙な焦りを覚えるのではないかと想像してしまう。
 次に浮かんだ感想は「これらのテストで確実に評価できることは『要領のよさ』だけではないか」だった。テスト自体も、作業の正確さ・緻密さ・創造性ではなく、いかに効率よく処理できるかを基準にしているものがそもそも多いということ、また、本来の資質ではなく、この本を含め山のようにある「対策本」を要領よくリサーチし、自分が受ける企業がどんなテストを実施するかもリサーチし、充分な対策を練ったものが高得点を挙げられる仕組みになってしまっていること、更に、本当にクリエイティビティや職種ごとの適性を調べる目的のテストであっても、ここまで「充分な対策」を伝授されては、応募者はどう解答したら希望職種に配属される確率が高まるかまで分かってしまうのである。多分、今後、全く新しいテストが開発されたとしても、それに対する「対策本」が登場して、いたちごっこが続くのだろう。
 一方、「種明かし」されたテストの内容は実に薄っぺらというか、チョロいものに思えてしまった。
 多分、私も大学生だったらこの本を買ってしまうだろうなと思う。でも、一通り読んだら、会社に対する見方は少し変わるだろうなという気もする。なんというか、結局、こういうテストを重視している会社なんて大したことないなということだ。種明かしされたら、実はこんなチョロいマスプロ品で、それでもって学生を判断しようとしているのだから。せいぜい要領のよさを磨くことにしておこうと思うだろう。
 それにしても、人を評価するのは難しい。
 

*1:正確な用語は違っていたように思う。