美術の教育プロジェクト 美術に教育・2004 command N / 御茶ノ水
主催者である中村政人氏は、「『引きこもり』から『社会へ』 それぞれのニュースタート」(参照:id:a2004:20040302)を書いた荒川龍(id:rosa41)さんの韓国留学時代のお友達だ。その荒川さんから「オレもまだ行っていないから、内容はよく分からないんだけど」とお知らせを受けて、私もよく分からないまま行ってみることに。
そんなわけも分からないのにも関わらず、行ったのには“わけ”がある。やはり荒川さんと一緒だったが、別の展示で中村氏とお話しをしたことがあった。そのときの彼の印象が「めちゃくちゃ、好青年だなぁ」だったから。現代アートをやる人というは、知的であってもどこかひねくれてたり、病的だったりするんじゃないかという先入観があったが、彼は見事にそれを裏切る感じの人なのだった。つまり、勝手に想像していた現代アートな人像とは違う中村氏が、次はどんなことをやったのだろうか?という野次馬根性が原動力なのだった。
会場に行って初めて分かったのは、中村政人氏が数多くの美術関係者に直接、インタビューした「インタビュー集」(冊子)の展示会なのであるということだった。一人一冊づつにまとめた冊子が、白い壁にグルリとかかっていて、訪問者は興味のあるインタビュー対象者の冊子を取って会場内のいすに腰掛け好きなだけ読む。私は、かねてから好きな「森村泰昌」と、好き嫌いは別にして今、最も興味がある「草間彌生」を手に取った。
「あなたは、美術、アートをどのような存在にしたいですか?」これが、この展示のキャッチフレーズだ。何も知らないで出かけた私はこれを、世間一般の人、フツーの日本人が美術、アートをより身近に感じるための問いかけだと思っていたのだが、どうもその答えは「美術関係者」もっと言うなら「東京芸術大で教育を受けた人」が、今の日本の美術界の問題を打開して、よりよい創作活動や、それを支援していく体制を作っていくにはどうしたらいいか?という絞り込まれた内容のようなのだった。ただし、もしかしたら大見当違いの可能性も大アリ。インタビューの数は何十人にもいて、その中の2人とプラスαしか読んでいないから。
どちらも美術家として異端系の二人とのやり取りはかみ合っていない部分が多く、また、そこが返って美術無関係者の私としては面白かった。森村氏には「ほめて伸ばす教育がいいといわれるけど、結果としてケチョンケチョンにけなされた方が良いこともあるんじゃないか」*1、とか、草間氏に至っては「一応、履歴には○○卒*2って書かれるけど、一回も行ったことないのよ」と言われている。結局、アーティストって、どんな環境だろうとやっちゃう人なんだなと思う。モチベーションがはっきりしているから。環境のことを考えることより何より作品をボコボコ作ってしまう。草間氏のことは自己主張の強いヘンなオバサンと思っていたが、ニューヨークに移り住んだ最初のころ、自分の作品を売り込むために、大きな作品をいくつもあの小さな体に担いで何ブロックも歩いた話など、スキャンダラスな部分ばかり取り上げられがちな彼女も、やっぱり地道な活動をしていたんだなぁと。本人はさらっと言ってのけてるけど、結構泣ける話だと思う。「NYでは、お金のないアーティストは絵の具を万引きするんです」という話も、森村氏の「美術は犯罪と紙一重」説*3とある意味、符号するなぁとか。善悪の問題はさておき、金があろうとなかろうとアーティストは作っちゃうんだなと。
とはいえ、この展示会を通して、私自身が最も痛烈に感じたことは「お前もグズグズしていないで、さっさと作品を作れ」。はい、そうします。結局、自分に返ってくるのが一番辛い。
そして意外なことは、あの宮島達男氏、そして中村氏自身もデッサンが上手いらしいのだが、上手く描けちゃうことがイヤで、それがインスタレーションの道に進む一つの動機になっているらしい、ということだった。宮島氏は前に読んだ対談集で、油絵学科だったが一枚も油絵を提出しないで卒業したと語っていた*4が、そういうことだったのかと妙に納得。何が人の原動力になるか、分からないものだ。
「美術に教育」サイト:http://www.commandn.net/~bikyo/index.html