過去のない男
小津安二郎の映画を何本か見たことがあるのだが、共通して抱いた感想は「なんだかシュールだなぁ」であった。古き良き、消えゆく美しい日本の姿を描いているなどとよく言われているが、今を生きる私にはそのあたりが奇異に映るのだろうか?そうではないと思う。うまく言えないのだが、物語を進行していくための、最小限のセリフと動作しかないような演技と、それとは裏腹に無意味とも思えるカットがポコポコ入るその微妙なアンバランスさとでもいうか。あと、必ず登場するヒロインを画面いっぱいに捕らえたカメラ目線のロングトークも、見てる側と映画の中の境が消えていくような感じがあって、怖いと言えば怖い。
この「過去のない男」はDVDで見たのだが、特典映像中の主演女優のインタビューでカウリスマキ監督が小津映画のファンであるらしいことが分かった。それで一連のカウリスマキ映画のシュールさの源が分かったような気がしたのだった。ただ、日本のシットリ感が、フィンランドの厳しい寒さにあたって化学変化を起こしているようではあるのだが。もちろんご本人は、自分の作品も小津の作品もシュールだとはゆめゆめ思ってもいないかもしれない。
それにしても、カウリスマキ監督は音楽が大好きなんだと思う。そして、笑うというより染みる映画だった。